弁護士吉田孝夫の憲法の話(68) 学問の自由(2)

学問は、文化と密接な関係があります。そして、文化は平和と切り離すことができません。学問は、いろいろな発明、発見を生み出し、芸術とともに人類に貢献してきました。それらは文化です。しかし、爆弾、戦車、ミサイルの発明を文化の中に入れることはできないと思います。
日本学術会議(以下、「学術会議」)という機関が内閣総理大臣の所轄の下に設置されています。その前身は、戦前の学術研究会議で、科学者の国際協力に対応する日本の科学者の代表機関とされていました。日本学術会議法前文に、「日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命し、ここに設立される。」とあるとおり、学術会議は、学術研究会議の戦争協力に対する反省に基づいて新設され、戦争を目的とする科学の研究は行わない旨の声明を出すなど、科学者の戦争協力を拒否する態度を明確にしてきました。学術会議の構成員(会員)は210人で、3年ごとに半数が改選されますが、当初は研究者の直接選挙により選ばれるので、科学者の国会とも呼ばれました。しかし、政府・与党は少しずつ学術会議の活動をせめ、1983年には、直接選挙制を廃止して、学者団体の推薦に基づき総理大臣が任命する制度に変えました。その際、学問の自由の保障により、総理大臣は学者団体の推薦をそのまま認めるので、任命は形式的なものにすぎないと説明されましたが、2020年、菅義偉総理大臣は、推薦された105名のうち、6名を任命しませんでした。更に、学術会議を総理大臣の所轄から格下げしようとする動きもあります。
少しむつかしい話になりましたが、国は金を出すのだから口も出すのが当然だという新自由主義、マネー万能主義の考え方が国民全体に広く、深く浸透してきたことが分かります。