弁護士吉田孝夫の憲法の話(73) 生活保護を受ける権利は人権

2023年、群馬県桐生市では生活保護利用者が、2011年からの10年間で半分以下になったという報道が全国的に注目を集めました。
市が生活保護を妨害するやり方も報道されました。たとえば、生活保護利用者に保護費を全額渡さず、ハローワークでの就活をさせたうえで、窓口で1日1000円ずつ手渡していたということです。30日でも3万円で、基準額の半額程度にしかならず、未支給分の保護費を課の手持ち金庫に入れて保管し、しかも、全額支給していないにもかかわらず、会計処理上は全額支給したことにしていたというのです。違法な隠蔽行為です。又、福祉課が1948本もの個人の印鑑を保持しており、それを使って、勝手に受領証等に押印していたというのですから、文書偽造罪は明らかですし、詐欺・横領も疑われ、市ぐるみ、犯罪集団の様相を呈しています。
このようなことが起きる背景には、生活保護を受ける権利は人権だという人権意識が、日本全体に希薄だからだと思われます。そのため、役人の中には、弱い立場にある人々に対し、お上意識を丸出しにして、不当なことを、あたかも正当であるかのように押し付ける者が少なくありません。
それに対し、憲法12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」と定め、泣き寝入りをしないよう、呼びかけていますが、日本全体の人権意識を高めなければ、そもそも人権を保持する意識が成立しません。法教育は第1に人権教育でなければなりませんが、学校では人権を、憲法99条の、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」という権力側の義務とセットにして考えるという視点が曖昧にされていることが問題だと思います。