弁護士吉田孝夫の憲法の話(74) 教育を受ける権利(1)
憲法26条1項は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と定めています。憲法施行の1947年5月3日に先だって、教育基本法が制定され施行されました。その前文は、憲法の理想の実現は「根本において教育の力に待つべきものである。」と、教育基本法制定の目的が明示され、「準憲法」とも呼ばれました。しかし、2006年(平成18年)、この教育基本法は廃止され、新たに制定された現行教育基本法では、憲法の理想の実現ではなく、日本国民が元々築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させ、世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願望するということで、憲法との関係を薄めました。
教育基本法1条の教育の目的も、旧法では、「平和的な国家及び社会の形成者として」、「個人の価値をたっとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた」国民の育成を期して行わなければならないとされていた部分が、現行法では「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた」国民の育成に変わっています。旧法の「平和的な国家」は、国の形が平和的であることを意味し、それは、憲法前文と9条から理解されます。現行法の「平和」な国家というのは国の形を意味しませんので、何を形成するのか分かりづらく、憲法との関係も薄めたと言えます。
教育を受けるというのは受動的ですが、積極的に学習するという能動的な面もあります。教育というと、学校教育が思い浮かびますが、教育を受ける権利は学校教育に限りません。この点に関して、教育基本法は、「個人の要望や社会の要請にこたえ、社会において行われる教育は、国及び地方公共体によって奨励されなければならない。国及び地方公共体は、図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校の施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法によって社会教育の振興に努めなければならない。」等と学校教育以外の教育についても定めています。
