弁護士吉田孝夫の憲法の話(83)財産権の保障(2)

憲法29条3項は、正当な補償の下に、私有財産を収用することができると定めていますが、「補償」、「収用」とは何か、「正当な」とはどういう意味か、補償を定めた法律がない場合、憲法29条3項を根拠として、補償を請求することができるのか、ということが、論じられます。
「補償」とよく似た用語に「賠償」というのがあります。通常、「補償」に対応するのは「損失」で、「賠償」に対応するのは「損害」です。不法行為でも債務不履行でも、損害賠償の問題になります。それは責任追及の側面を持っています。それに対し、損失補償の請求は、通常、責任追及の意味を持ちません。そこで、何らかの被害を訴えて、国に対し謝罪を求めたいと思う人々にとっては、国が損失補償を行うというのでは、すっきりしないという気持ちが残るかもしれません。その補償額が低いときは、なおさらです。
「正当な」の意味については、完全補償説と相当補償と折衷説があるとされますが、いずれにしても、完全補償が原則です。考え方としては、どのような補償が社会正義に合致するかということです。
「収用」には、財産権と言えないようなものも含まれるとされたことがあります。予防接種による副作用(副反応)で死亡した子どもの親が国に対し、国家賠償法による損害賠償請求の訴訟を起こしましたが、その際、憲法29条3項による損失補償も請求し、裁判所は、医師に過失があった場合には損害賠償、過失がなかった場合には損失補償を認めました。
前に、収用を軍事目的に使うことは憲法に反すると書きました。難しい話になりますが、社会国家、福祉国家、経済の民主化(新自由主義が生み出した経済格差の是正)という面からは、困窮者に対する救済事業のために、富裕者の資産を収用することは憲法上可能です。その場合には、完全補償は収用目的になじまないと考えられます。