弁護士吉田孝夫の憲法の話(79) 勤労の権利・義務

憲法27条1項は、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」と定めています。これも、社会国家的な条文です。近代的憲法には、勤労・労働の権利という考え方はありません。しかし、現代においては、財産を持たない人々は労働によって生活するということが権利として保障されるべきだという考え方が強まってきました。明治憲法下でも、貧富の差による社会的問題が起こり、明治44年、主に子どもや女性の労働者を保護するために工場法が制定されました。
勤労の権利というのは、労働者が働く権利を国によって侵害されないというだけではなく、少なくとも、国には、積極的に人々に働く機会を与える責任があり、労働の機会を保障するための政策が求められていることは確かです。又、同条項は、労働者保護のため、解雇制限など、使用者を規制する立法の根拠とも解されています。
勤労の義務については、憲法18条で、「その意に反する苦役に服させられない。」とされていますから、強制的に働かされるという意味ではないことは明らかです。又、不労所得を禁止するという意味でもないとされています。他方、勤労の能力があり、その機会があるにもかかわらず働こうとしない者に対しては、生活保護や雇用保険の受給を制限することができるという意味だというのが多数の憲法学者の意見です。しかし、これには疑問があります。アナトール・フランスは小説「赤い百合」(小林正訳)の登場人物に、「厳かな法の平等とは、貧富の別なく一様に橋の下で寝たり、町中で物乞いをしたり、パンを盗んだりすることを禁じているのです。」と言わせています。利息だけでも裕福な生活ができる資産家は富裕税のような制度がないので何も不利益を受けず、貧困者だけが、当人に向いた仕事がない場合ても、生存に関わる制裁によって、労働を強制される不平等が生じる恐れがあり、社会国家に逆行します。