弁護士吉田孝夫の憲法の話(39) 古い全体主義と新しい全体主義(4)
新自由主義は1970年代から世界に広まり、その影響も世界的ですが、日本には独自の事情があります。「国境なき記者団」が毎年発表する報道の自由度ランキングによれば、今年の日本の順位は180カ国中71位で、先進7カ国中最下位でした。因みに、アメリカは42位、韓国は43位です。日本には報道の自由について、様々な障害があるということです。
電通の世論操作・情報操作については前に取り上げました。それ以外に、タブーと呼ばれる、言論・出版界の自主規制があります。
タブーの根底には、暴力があります。「中央公論」という雑誌の1960年12月号に掲載された「風流夢譚」(ふうりゅうむたん)という小説が皇室を侮辱するものだとして右翼団体が騒ぎ、1961年2月、右翼少年が中央公論社の社長宅に侵入してお手伝いさんと嶋中社長夫人を殺傷しました。それ以来、天皇制批判はタブーになりました。それまでは、左翼でなくても、天皇制廃止論などが雑誌に載っていました。今時、天皇制廃止などを言えば、共産党より左翼だとみなされてしまいます。
1987年5月3日には朝日新聞阪神支局に男が侵入して、記者2人を殺傷しました。「赤報隊」を名乗る犯行声明が出されましたが、犯人は不明のまま時効になりました。この事件により、言論・出版界は、右翼を刺激することを恐れ、自主規制はますます強まりました。「赤報隊」については、警察の捜査線上に、元自衛官、世界基督教統一神霊協会(統一教会)などが浮かんだそうですが、捜査はうやむやで終わりました。
マスメディアも雑誌も左翼的な言論人の起用を避け、右寄りの人の登場を増やしたため、日本の言論界の中心の軸がずれて日本全体が右傾化し、全体主義の温床になっています。しかし、以前のことを知らない人や、忘れてしまった人は、それに気が付きません。昔、自民党には鳩派と鷹派がありましたが、今の自民党は、鳩派がなくなり、右翼と極右だけになりました。