弁護士吉田孝夫の憲法の話(59) 信教の自由の現状
2024年1月、陸上自衛隊の幹部が靖國神社を参拝したとの報道がありました。陸上自衛隊ナンバー2の幕僚副長が陸自の航空事故調査委員会で関係者41人に私人としての参拝を呼びかけ、22人が参加したというものです。宗教の礼拝所を部隊で参拝することなどを禁じた昭和49年の事務次官通達に違反しているのではないかと問題になりました。陸自の参拝は毎年行われているけれども、防衛省は、「全員が自由意思に基づく私的参拝だったと認識していた」ということで参拝そのものは問題ないと判断したということです。
「改自衛隊で奏でた交響曲」というブログ記事によれば、海上自衛隊では遠洋練習航海の際、靖國神社参拝を毎年やっており、参拝の玉串料は、全員分を練習艦隊司令官や艦長がポケットマネーで出し、防衛大学出身者は、靖國神社参拝が学生隊の行事で行われているので、遠洋練習航海の際の参拝には参加しないとのことです。しかし、これでは、いくら参拝が自由だと言っても、事務次官通達に違反していないと言っても、組織として参拝が行われているというほかありません。
靖國神社に関しては、2024年4月1日付で元海将で前駐ジブチ共和国大使の大塚海夫氏が新たな宮司に就任したとのことです。ジブチ共和国といえば、紛争が絶えない中東のすぐそばで、日本の自衛隊の基地がある国です。
靖國神社は戦前、他の神社とは異なり、帝国陸海軍の管轄とされていました。靖國神社と自衛隊の接近は、戦前の政教一致に対する反省から憲法が厳格な政教分離を定めた趣旨に反すると考えられます。
自衛艦には艦内神社があり、陸・空の自衛隊の施設にも、警察署にも神棚があります。私はこれらも違憲と考えますが、裁判官にとっては違憲の判断をするには相当の覚悟が必要です。