弁護士吉田孝夫の憲法の話(63) 表現の自由(4)

憲法21条2項は、検閲の禁止と通信の秘密を侵してはならないと定めています。1項の、集会、結社、言論等の表現の自由を含む精神的自由が侵害されると、憲法秩序を復元することが不可能になるため、特に2項で保障を強化したのです。権力者が国策に都合の良い意見だけを流し、それに批判的な意見を封じ込めてしまうなら、いくら形は民主政治でも、国民は権力者にあやつられて、実際は独裁政治になってしまいます。
明治憲法は、臣民(国民)は、法律の範囲内において言論著作印行集会及び結社の自由を有すること、法律で定めた場合を除いて郵便の秘密を侵されないと定めていましたので、表現の自由は法律による制約を予定していました。国は検閲を行い、権力者に不都合な本は出版を事前に禁止しました。1925年(大正14年)に治安維持法が制定され、天皇制に批判的な思想に基づく結社や、そこに加入すること自体、処罰されることになりました。そんな法律が選挙で選ばれた国民の代表である衆議院でも賛成多数で可決されたのは、それまでの国の出版統制などに国民が慣らされてきたからです。治安維持法と同時に制定された普通選挙法によって、以後、広い範囲の国民の声が議会に届くようになったはずですが、治安維持法は廃止されるどころか、1941年(昭和16年)には更に露骨に思想弾圧ができるように改悪されました。選挙制度が民主的になっても、表現の自由が確保されなければ民主的な政治にならないという見本です。
現在の日本のニュース報道は情報操作によってゆがめられていますが、大多数の人がそれに慣らされているので、情報操作に気づいていないと思います。それに気づくには、広い情報源と相当の基礎知識を含む読解力が必要です。現在はインターネットで、外国語のニュースをコピーして翻訳ソフトに貼り付ければ、パッと翻訳されるので、便利になりました。