弁護士吉田孝夫の憲法の話(64) 表現の自由(5)
表現の自由は憲法によって強く保障されることになりました。たしかに明治憲法の時代と現在とでは大きな差があります。それでも、表現の自由に対する行き過ぎた規制があるのではないかという疑いが存在します。
デモ行進や公共的な場所での集会に関しては、自治体が、いわゆる公安条例を制定して、事前の許可を必要と定めている例があります。1954年の最高裁判例は、「行列行進又は集団示威運動」を公安委員会の許可なく行ってはならないとの規定について、特段の事由のない限り許可することを原則とする趣旨と認められるとして、合憲としました。
ここで、届け出制と許可制について説明しておきますと、許可制というのは、全体を禁止しておいて、許可申請があった場合に、許可してもいいと認められる特別な理由がある場合に、申請された事項については禁止を解除するというものです。つまり、全体を禁止した上で、申請に応じて一部許可するというのが許可制です。それに対し、届け出制というのは、例えば、2つの集団が同じ日時に同じ場所を使用する予定を組んでしまうと困るので、先に届け出た方を優先するというような調整のための制度です。届け出制では、届け出さえすれば、許可がなくても実行できますが、許可制では、いくら許可が原則だと言っても、許可権者から許可してもらえないのに実行したら違法になります。両者の違いは一目瞭然ですが、最高裁は政治的な配慮から、違いをわざと不明瞭にして、デモ等の規制を優先したと言えます。
又、公安条例を定めずに、道路交通法によってデモ等を規制している県もあります。道交法77条は、「一般交通に著しい影響を及ぼすような」道路の使用を許可制にしていますが、これもデモ等の規制に利用されています。政権に対する批判を強く規制する国は、専制政治に近づくことになります。