弁護士吉田孝夫の憲法の話(69) 婚姻と両性の平等
憲法24条1項は婚姻について、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有すること、相互の協力を定め、2項は、婚姻及び家族に関する立法について、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚しなければならないことを定めています。
現在、婚姻して同じ戸籍に入る夫婦は、いずれか一方の氏(姓)を名乗らなければならないとされていますが、近年、夫婦別姓も認めるべきだという意見が強まってきました。それに対し、夫婦同姓が日本の伝統だとして反対する意見も根強くあります。しかし、日本の伝統は夫婦別姓でした。歴史的には、女性の名前は明記されることが少ないのですが、文献ではっきりしている場合もあります。奈良時代の左大臣橘諸兄(たちばなのもろえ)の母橘三千代(たちばなのみちよ)は、皇族の美努王と結婚・離婚し、藤原不比等(ふじわらのふひと)と再婚しましたが、藤原三千代にはならず、橘三千代のままでした。源頼朝と結婚した北条政子は結婚しても北条政子で、源政子にはなっていません。
明治時代以後のことは法務省のホームページにあります。まず、明治3年の太政官布告で、平民に氏の使用が許されることになりましたが、夫婦同姓か夫婦別姓かは明らかではありません。明治9年には、妻の氏は実家の氏を用いること、すなわち、夫婦別姓が定められました。日本で初めて夫婦同姓が定められたのは、明治31年です。この時、民法にヨーロッパの家父長制が取り入れられて、夫婦ともに「家」の氏を称することになったので、夫婦が同姓になったということです。しかし、前記の両性の平等の規定により、妻の無能力を定めた民法は違憲となり、夫婦の合意によって、いずれかの姓にするよう改正されました。
夫婦同姓は、家父長制の名残りとも言えます。現在、世界で日本のような夫婦同姓を法定している国はほとんどありません。