弁護士吉田孝夫の憲法の話(81)労働者の人権
憲法27条2項は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」とし、3項は、「児童は、これを酷使してはならない。」としています。2項は国に対する義務を定めていますが、3項は国の義務ではなく、使用者の義務です。憲法27条が、賃金等の勤労条件(労働条件)に関する基準は法律で定めるというのは、法律で定めさえすればいいというのではなく、労働者の保護に十分な基準を定めなければならないということです。児童を酷使してはならないというのは、労働条件を定める場合の例示と考えられます。この条項を受けて、労働基準法、労働契約法、最低賃金法などが制定されています。使用者の採用の自由に対しても、雇用機会均等法による制限が設けられています。
憲法は権力者の義務を定めているという法だという観点で、労働者の人権が社会国家的人権だという理解がないと、それは労働基準法等の法律が制定されたことによる反射的効果だと誤解することになってしまいます。
憲法28条の、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」というのも、労働者と使用者との間の法的関係についての規定です。国や公共団体に雇用される労働者だけを対象にするものではなく、私企業を含む使用者全体と労働者との関係について定めています。これも、国は労働者の団結権、団体交渉権その他の団体行動権を保護する法律を定めなければならないということです。
このように、憲法27条、28条は労働者の人権保障を定めていますが、国がそのための法律の制定を怠っている場合や、法律の規定が憲法の想定する基準に達していない場合、労働者が使用者に対し、直接憲法に基づいて権利を主張することも考えられます(憲法98条、99条)。人権が拡張されるか、縮小されるかは、国民の不断の努力にかかっています(憲法12条)。
