弁護士吉田孝夫の憲法の話(7) 憲法問題調査委員会の改正案
年が明け,1946年元旦,天皇は,いわゆる人間宣言を公表しました。ところで,大嘗祭というのは,明治維新以降,即位した天皇がこの祭事の秘儀を通じて現人神になるのだとか,日本は神の国だとか言われてきました。大半の国民(臣民)は,敗戦の直前まで,最後には神風(かみかぜ)が吹いて,必ず日本が勝つと信じていました。もっとも,戦争が終わった時,私の母が祖母に,「天皇は神様やのに,なんで戦争に負けてしもたんやろ?」と言ったら,明治生まれの祖母からは,「あんた,天皇が神様やなんて,ほんまに信じてたん?」という言葉が返ってきたそうです。
2000年(平成12年),森喜朗首相は,「日本は天皇を中心としている神の国である」ということを国民の皆さんに承知していただくと言いましたが,国家的行事として大嘗祭を行う現在の日本は,天皇が現人神として統治する「神の国」の復活を目指しているように見えます。
1946年1月,憲法問題調査委員会の憲法改正案も完成し,政府に提出されました。この委員会の審議過程では委員の中に異論もあり,松本試案や宮沢俊義委員の宮沢案などが作られましたが,いずれも天皇が統治権を行うという点では一致していました
2月1日,毎日新聞が憲法問題調査委員会の「試案」全文をスクープ報道しました。これは,政府に提出された案ではなく,宮沢案でしたが,これに対し,あまりに保守的という世論がわき起こったそうです。
GHQは,この新聞報道を見て,政府が進めている憲法改正作業は民意及びポツダム宣言を無視していると判断し,自ら,憲法改正草案を政府に提示することにしたのです。憲法研究会の草案要綱が12月にGHQに提出されたことは前述しました。