弁護士吉田孝夫の憲法の話(20) 第9条を廻る色々な考え方

第9条を廻っては、色々な意見があります。最もラディカルな反対意見は、そもそも現行憲法はハーグ陸戦条約(1900年9月4日発効、日本は1911年に批准)に違反しており、第9条だけではなく全部無効だというもの(明治憲法存続論)です。しかし、これは現行憲法成立の経緯に照らし、荒唐無稽というほかありません。

現行憲法はGHQから押し付けられたものだという意見もありましたが、この押し付け憲法論も、既に衆議院憲法調査会で否定されています。

日本が非武装で、安保条約も廃棄したら、隣国(どこか分かりませんが)から武力攻撃を受けて、植民地にされたり皆殺しにされたりするのではないか、それらの国々とアメリカとの戦争が起こり、日本が戦場になるのではないか、と心配する人がいます。しかし、はっきり言って、日本が乱暴なことをしない限り、そんなことは起こりません。

日本は平和のための外交を怠ってきたと思われます。核問題などもそうですが、アメリカ依存の外交です。その典型的な例が、いわゆる「北朝鮮拉致問題」です。2002年の日朝首脳会談で、金正日総書記が初めて日本人の拉致を認めて小泉首相に謝罪し、一部の拉致被害者を日本に一時帰国させると約束し、5人の拉致被害者を日本に帰国させました。ところが、日本政府はその5人を朝鮮に返すという約束の実行を拒否しました。憲法前文に、「政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」とありますが、日本政府はアメリカの虎の威を借りて約束を破った、つまり、だましたということです。この実例は、日本の周辺諸国に大きな教訓を与えたと思います。日本は何をするか分からない国と見られ、北朝鮮と直接外交交渉をすることができなくなりました。