弁護士吉田孝夫の憲法の話(19) 個別的自衛権と集団的自衛権

多くの人は,憲法9条は集団的自衛権の行使は認めないけれども個別的自衛権の行使は認めていると思っていることでしょう。しかし,前に書きましたように,憲法は国際法上の自衛権を否定していません。ただ,9条2項で戦力を保持せず,交戦権も認めないとしているため,自衛戦争も否定されているというのが大半の憲法学者の解釈なのです。そこには個別的自衛権と集団的自衛権の区別はありません。

それでは何故,2014年(平成26年)7月1日に政府が憲法解釈を変更して集団的自衛権容認の閣議決定を行ったことが問題になったのでしょうか。その原因は,陸海空の自衛隊が新設された時にさかのぼります。日本への直接攻撃がなく同盟国が武力攻撃を受けただけの場合にも自衛隊が出動することがあり得るというのでは,自衛隊は軍隊で憲法違反だという批判を受けます。そこで,政府は批判を避けるために「個別的自衛権」,「集団的自衛権」という言葉を編み出し,自衛隊は必要最小限の個別的自衛権を行使するだけだから,軍隊ではなく合憲だと説明しました。

日本とアメリカの間には,日米安全保障条約(日米安保条約)があります。「安全」といえば憲法前文に,「日本国民は(中略)平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と書かれていますが,安保条約はそれとは趣旨が違います。

第2次世界大戦後,アメリカは,共産圏諸国と対立することになり,日本はアメリカに軍事基地を提供して,日本の安全を確保しようとしたのです。これには自衛隊の軍事出動が定められていないので,本来軍事同盟ではありませんでした。しかし,共産圏の崩壊によって,徐々に「安保条約の再定義」が進められ,「周辺事態」や「日米同盟」がでっちあげられて,集団的自衛権にまで至りました。

現在,自衛隊は,北アフリカのジブチ共和国に海外出動の基地を持ち,日米安保の地位協定と同様の地位協定を結んでいます。