弁護士吉田孝夫の憲法の話(29) 憲法を解釈するということ(1)
憲法でも法律でも条例でも、それに従う場合、その前に法解釈が必要になります。憲法98条1項は、「この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」と定めていますが、国会や内閣や都道府県・市町村などの立法・行政機関が、その任務を行うに当たって憲法を解釈する場合、その解釈は、法的にある程度の権威が認められます。これを有権解釈といいます。ですから、議員が憲法の解釈を間違って違憲の法律を制定したとしても、その法律は無効で、誰もそれに従わなくてもいいということにはなりません。違憲の法律でも、それに従わなければ罰せられたり、逮捕される可能性すらあります。
違憲の法律を無効と判断する最終的な権限を持っているのが、最高裁判所です。憲法81条は、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と定めています。最高裁判所が行う憲法解釈が最高の有権解釈だということです。しかし、誰でも最高裁判所に、これこれの法律が違憲かどうか決定して下さいと申し立てることが認められているわけではありません。
まず、誰かと誰かの間に法的な紛争が起きて、その紛争を解決するためには、どうしても裁判所の判断が必要だという事情(事件性といいます。)がなければ、裁判所に判断を求めることはできません。最初は、簡易裁判所や地方裁判所等に判断を求め、その裁判所の判断に不服があれば、高等裁判所に不服を申し立て、その憲法判断にも不服があれば、最終的に、最高裁判所に不服を申し立てることができます。憲法81条は、国に対し、こうして最終的には最高裁判所の憲法判断を受けられる制度を作るように命じているのです。