弁護士吉田孝夫の憲法の話(44) 反省によって生まれた憲法条項(5)

明治憲法27条1項は「日本国民ハ其ノ所有権ヲ侵サルヽコトトナシ」、2項は「公益ノ為必要ナル処分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル」と定めていました。つまり、一方で所有権絶対の原則、他方で「公益」を理由に制限できるということです。「公益」とは何かと言えば、明治憲法では、第1に国益でした。この条項を受けて制定された土地収用法(旧土地収用法)は、1条で、公共の利益となる事業のために、土地を収用・使用できることを定め、2条でその事業の内容を、①国防その他軍事に関する事業、②官庁又は公署建設に関する事業、③教育、学芸、慈善に関する事業、④鉄道・道路等の公共事業、⑤衛生・防災等公用目的のために国・地方公共団体が実施する事業と定めていました。
日本国憲法では、明治憲法の27条に当たる規定が29条です。29条1項は「財産権は、これを侵してはならない。」と定め、明治憲法とほぼ同じと思われるかもしれませんが、2項は「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」、3項は「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」となっていて、かなり意味が変わっていることが分かります。2項によって、基本的に所有権絶対ではなくなっているのです。又、収用については、「公益」のためではなく、「公共」のために変わっています。旧土地収用法にも「公共」のためという文言はありましたが、それは明治憲法の「公益」のためという規定を受けてのものですから、国益が第1とされ、収用目的の1番目が「国防その他軍事に関する事業」でした。
日本国憲法の下で制定された土地収用法では、憲法に適合するように、国防・軍事に関する事業は除かれました。しかし、日米安全保障条約・地位協定により米軍のための土地収用を認める特別措置法や自衛隊法には国防目的の収用が入れられ、これは違憲だと考えられます。