弁護士吉田孝夫の憲法の話(55) 奴隷的拘束・苦役からの自由

憲法18条は、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」と定めています。この規定は明治憲法にはなく、アメリカ合衆国憲法修正13条1項に由来します。アメリカでは、それにより奴隷制が廃止されたということですが、日本では奴隷制がありませんので、18条前段は、奴隷のような拘束、自由な人格を否定する程度の拘束を受けない自由を誰もが保障されるという意味です。同条後段の、「意に反する苦役」は、犯罪による刑罰としては認められていますが、奴隷的拘束は刑務所で服役している人に対しても禁じられています。過去に、紀律違反で拘置所長から懲罰を課された死刑囚が、その懲罰が苛酷で奴隷的拘束に当たるとして訴え、裁判所はその訴えを認めました。苦役に服させることが認められる場合であっても、それが奴隷的拘束の程度に達することは無条件に禁止されるということです。明治憲法下では、刑務所などの収容者は特別権力関係に服しているので人権保障が及ばないという考え方が支配的でしたが、現行憲法の下では、そのような考え方は通用しません。
「苦役」とは、普通の人を基準にして苦痛に感じられるような仕事を意味するという説もありますが、苦痛は人それぞれで感じ方が異なりますから、基準としては疑問です。意に反する仕事がすべて苦役だというのも違うようです。よく考えてみると、刑罰で強制される労役は、本来その人でなければならないという仕事ではありません。災害救助法に基づく都道府県知事の従事命令等は、その意に反する仕事を強制するものですが、それは、その人を必要とする仕事です。そのような場合、その人を必要とする程度と苦痛の程度を考慮して、過度の苦痛でなければ、条理上「苦役」ではないと判断するべきです。なお、徴兵制度は、生命にも関わることですから、自衛隊を憲法に規定しても「苦役」に当たると考えます。