弁護士吉田孝夫の憲法の話(56) 精神的自由と経済的自由

憲法が保障する自由のうち、精神的自由と経済的自由について述べたいと思います。自由権は、国や市町村などの権力機関から干渉や束縛を受けない権利です。精神的自由には思想・良心の自由(19条)、信教の自由(20条)、集会・結社・表現の自由(21条)、学問の自由(23条)が含まれ、経済的自由には居住・移転・職業選択の自由(22条)、財産権(29条)が含まれます。国が立法・行政によって何らかの政策目的を実現するために、人々の行動を規制したり、奨励したりする必要が生じます。規制というのは直接的な自由の制限ですが、奨励も間接的に自由を制限する手段になり得ます。例えば、Aという会社とBという会社が同じような商品を作っている場合に、国がA社の製造方法を奨励する政策を取れば、B社の方は自社の製造方法を維持することが困難になるかもしれません。そうすると結果的にB社の製造方法の自由が制限されることになります。
自由の制限はすべて憲法違反というわけではなく、そのことを13条では、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しています。しかし、「公共の福祉」というのは明確ではないため、人権を制限する法律が違憲か合憲かについて争われる訴訟では、歴史的に種々の基準が考えられてきました。「明白かつ現在の危険」がなければ自由を制限できないという高度に厳格な基準から、特に不合理な制限でなければ許されるというゆるやかな基準まで、具体的なケースに応じて適用されることになります。その場合、精神的自由の制限は経済的自由の制限より高度に厳格な基準が適用されるべきだというのが、いわゆる二重の基準論です。精神的自由が特に重要とされる理由は、それが侵害されると、憲法秩序を復元することが不可能になるからだということです。