弁護士吉田孝夫の憲法の話(21) 第9条と日米安全保障条約
これについては1959年の最高裁判決があります。東京の砂川町にあった米軍基地の拡張に対し、反対運動参加者のうち7名が柵を壊して基地内に立ち入ったとして、安保条約に基づく刑事特別法違反で起訴されました。1審の東京地裁は、米軍の存在を憲法9条違反であるとして無罪を言い渡しました(裁判長の名前を取って、伊達判決と呼ばれています。)。
伊達判決に対し、検察は、高裁に控訴せず、最高裁に上告しました。このような上告は、最高裁が法令解釈について特に重要と認めた場合に許され、跳躍上告と呼ばれます。検察が異例の跳躍上告を行った裏には、アメリカ政府の介入があったことが、約50年後に発見されたアメリカの公文書によって明らかになりました。アメリカ大使は田中耕太郎最高裁長官とも秘密会談を行い、田中長官は、判決の見通しなども大使に話したということです。日本では司法権の独立が軽視されていることの現れです。
1959年12月16日、最高裁大法廷は、1審判決を破棄し、東京地裁に差し戻しました。破棄の理由は、①憲法9条1項は、必要な自衛のための措置をとりうることを禁じておらず、同条2項が自衛のための戦力の保持を禁じたものか否かは別として、外国の軍隊は同条2項の戦力には該当しない、②安保条約は高度の政治性を有しており、違憲か否かの法的判断は、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査の範囲外であるというものです。これは、高度の政治的判断です。①の理由からは、安保条約は合憲という結論が導かれるはずですが、②の理由からは、合憲か違憲かは判断できないという結論になります。両者は矛盾しています。しかし、判決は、安保条約が合憲であるとは断定していませんので、結局②の立場を取っていると解釈されています。