弁護士吉田孝夫の憲法の話(23) 基本的人権の考え方
中学校では、人権(基本的人権)とは、人が生まれながらに持っている人間としての権利と説明されているようです。
しかし、例えば、殺人事件が起こった場合など、被害者は人権を侵害されたと言うでしょうか。そのような場合、権利侵害、法益侵害と言われ、刑法の犯罪や民法の不法行為にはなっても、人権侵害とは言いません。
又、人権週間のポスターに、「育てよう一人一人の人権意識」、「思いやりの心 かけがえのない命を大切に」というような標語が掲げられています。しかし、これでは「人権」がぼやけてしまいます。
人権とは何かという場合、それは誰に対する権利かということとセットになっていなければ、明確に理解することができません。人権を侵害するのは誰か。それは国の役人など、権力を用いる人々です。
2017年に内閣府は、東日本大震災及び福島原発事故により、どのような人権問題が起きているかというアンケート調査を行いました。そのアンケート項目は、「避難生活の長期化によるストレスに伴ういさかいや虐待」「学校,幼稚園等で嫌がらせやいじめを受けること」「差別的な言動をされること」「学校,幼稚園等への入学や入園を拒否されること」「アパート等への入居を拒否されること」「宿泊施設,店舗等への入店や施設利用を拒否されること」というものです。しかし、そのようなことは、ほとんど人権侵害の問題ではありません。
特に、福島原発事故では、国が危険な原発の建設を推進してきたこと、原発差止訴訟に対し、裁判所が差止めを認めず、日本全体を危険にさらし続けていることなどが、人権侵害の問題です。