裁判官弾劾裁判所に関する全国憲憲法問題シンポジウムについて

2021年9月18日、全国憲 憲法問題特別委員会シンポジウム「裁判官の弾劾と表現の自由」
が開催されたようです。

柳瀬昇教授が「制度としての裁判官の弾劾」と題する報告を行い、市川正人教授が「裁判官の表現の自由」と題する報告をされたようです。

柳瀬教授は、裁判官弾劾制度についての日本国憲法の条項を示されたものの、現行裁判官弾劾法が憲法に適合しているのか否かという点については、無視され、当然合憲だという立場のようです。

司法権の独立についての解説は行われたようですが、裁判官弾劾法が裁判官の身分保障と整合するのか否かには、無関心としか思えません。岡口裁判官に対する弾劾訴追は、日本の裁判官弾劾制度を合憲と解釈すべきか違憲と解釈すべきかという問題を、あらためて憲法学者や法律家に突きつけていると思います。

この問題を裁判官の表現の自由の問題と捉え、弾劾訴追は表現の自由の面で裁判官を萎縮させるという点だけを批判する意見が多いように見受けられますが、これは、実害を風評被害と言うようなものだと思います。国会で勢力を有する政党にとって不都合と目を付けられた裁判官は、日常行動を監視され、曖昧な基準で弾劾訴追され、強制的に職務を停止されるので、萎縮効果だけでなく、多数党が特定の裁判官を理由なく職務から排除できるという恐ろしい制度です。法曹資格を剥奪したり、職務停止の決定をするという重大な不利益を課すための基準が不明確で、明確性の原則に反していると言わざるを得ません。

明確性の原則には、憲法31条に基づく場合と憲法21条に基づく場合がありますが、裁判官の弾劾要件に関しては、憲法31条により明確性が必要条件になると考えられます。弾劾裁判が英米のように刑事裁判であり、弾劾事由が一定の犯罪に限定されるのであれば、犯罪構成要件の厳格な解釈を通じて明確性の原則に適合することになります。

私の、裁判官弾劾法違憲説(6月18日付及び8月20日付コラム)は、憲法78条の文理解釈、論理解釈(目的論的解釈)、歴史的解釈(英米における弾劾裁判制度の歴史、現行憲法成立の経緯に基づく解釈)によっていますが、柳瀬教授(他の憲法学者もそうですが)は、憲法64条が国会に裁判官弾劾裁判所に関して、どのような制度にするか完全に自由裁量権を与えたと解されているようです。

しかし、国会に完全な自由裁量権を与えたという解釈そのものが、アメリカから継受した「弾劾裁判所」の文理解釈に反し、法の支配、権力の分立、司法権の独立という立憲主義の基本原則にも反します。

憲法78条には、「公の弾劾によらなければ罷免されない。」とあって、「国会が設置した特別の裁判所の裁判によらなければ罷免されない。」とは書いてありません。又、憲法64条には、「国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける」とあって、「国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する特別の裁判所を設ける。」とは書いてありません。「弾劾」というのは、「Impeachment」の日本語訳で、固有の意味を持つ法律用語です。ただの裁判ではありません。

司法府の人事制度に関する立法府の自由裁量というのは、EUでも、ポーランドの裁判官の独立に関して大問題になっているようです。
https://www.amnesty.or.jp/news/2019/0702_8192.html
https://jp.reuters.com/article/poland-eu-judiciary-idJPL4N28S06D
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021090701105&g=int

https://www.cnn.co.jp/world/35178720.html

 

2021.11.26追記

「柳瀬教授(他の憲法学者もそうですが)は、憲法64条が国会に裁判官弾劾裁判所に関して、どのような制度にするか完全に自由裁量権を与えたと解されているようです。」と書きましたが、最近読んだ君塚正臣著「司法権・憲法訴訟論 上巻」に、従来多くの学者の論考において、司法権論と憲法訴訟論が渾然一体になっていた状況について、「この渾然一体性は、学説が一般に、憲法76条の「司法権」と裁判所法3条の中身とを暗黙のうちに一致させてきた点にも表れていた。そもそもまず、日本国憲法の解釈を下位法令に委ね、現行実定法制度を所与のものとすることは、法理論として倒錯的であった。」と述べられていることで、私の前言を修正する必要があるように思えてきました。

つまり、従来の憲法学者が意識的に、国会に自由裁量権があると解釈したというよりは、結果的には同じですが、特に意識せずに、憲法の「弾劾」の解釈を下位法令である裁判官弾劾法2条に委ねるという態度を取ってきたことの表れと考えられます。

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