弁護士吉田孝夫の憲法の話(42) 反省によって生まれた憲法条項(3)

憲法33条から39条までは刑事手続についての規定です。手続というのは、軽く見られがちですが、人権にとって、手続は非常に重大です。無実の人が処刑されるというようなことも、手続をおろそかにすることによって起こります。
前に、基本的人権とは何かということで、「それは誰に対する権利かということとセットになっていなければ、明確に理解することができません。人権を侵害するのは誰か。それは国の役人など、権力を用いる人々です。」と書きました。誰でも、わずらわしい手続は嫌いですが、権力というのは、力づくで人々を従わせることができるため、手続を決めておかないと、役人は、土足でづかづかと他人の家に入って来かねないのです。それは刑事手続でも行政手続でも同様です。戦前は、行政執行法が定める「予防検束」により身体を拘束する制度もあり、思想弾圧に利用されました。
憲法は、適正手続条項の外に、33条以下で、逮捕・勾留等の場合に必要な手続を定めました。それに基づいて、刑事訴訟法が更に具体的な手続を定めているのですが、それでも、警察、検察、裁判所には手続を軽視する傾向があります。
テレビドラマでも、よく刑事が犯人らしき人物を問い詰める場面が出てきますが、その前に黙秘権を告知する場面は、ほとんど見られません。
憲法38条1項は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」と定め、刑事訴訟法は、「任意にされたものでない疑いのある」自白は証拠にできないと定めています。しかし、実際は、任意性に疑いがあるだけでは、ほとんどの裁判官は自白を排除しません。
自白しない被告人には、原則として保釈を認めず、家族にも面会させずに自白を強要する「人質司法」と呼ばれる状況がありますが、人質司法が成り立っているのも、裁判官の後押しがあるためです。