検察庁法改正(検察幹部の定年延長)問題

現在審議中の検察官の定年に関する法改正は、日本の権力分立を益々弱体化させる(ということは、法の支配、立憲主義を形骸化させる)、とんでもない改正です。

事の発端は、黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題でした。

国家公務員の定年については、国家公務員法に、定年退官予定者の勤務延長を認める規定がありますが、検察官の定年は国家公務員法とは別に検察庁法に定められており、検察官には国家公務員法の定年延長の規定は適用されないと解釈されてきました。

ところが、本年1月31日、黒川検事長につき国家公務員法に基づき6カ月間の定年延長の閣議決定が行われました。この定年延長には、法的根拠も実質的な正当理由もありません。

森雅子法務大臣は国会で、従来の法解釈を変更したと答弁しましたが、法解釈の変更は、途中の文書も決裁文書もなく口頭決裁で行ったというのです。

安倍内閣は、政府に都合の悪い文書の隠蔽や改ざんや廃棄など、やりたい放題ですが、ついに、法解釈の変更(これは単なる法律違反ですが)という重大な事項について、法務大臣が何らの痕跡も残さない形で決裁するという究極の文書操作に至りました。これは、国民に対するアカウンタビリティ(説明責任)の放棄であり、知らしむべからずという封建時代への歴史の逆行です。

検察庁法改正案は、一律に定年の年齢を上げるというだけではなく、定年が近づいた個々の検察官の役職を延長するか、降格させるかを政府が決められるようにするというものです。それに基準を設けても、歯止めにはなりません。政府は、検察を操作する手段を手に入れることになります。

こうなると、検察官が時の政権に気に入られるか否かを常に気にして行動するようになる恐れが飛躍的に大きくなります。公文書改ざんの責任者である佐川宣寿氏が国税庁長官に栄転した例のように。

従来、検察の捜査が大物政治家に及びそうなとき、それを阻止するには、法務大臣が検事総長に対し指揮権を発動するという手段しかありませんでした。しかし、政府が上記のような人事権を持てば、役職を持つ検察官は政府の意向を忖度するようになることは目に見えています。

裁判官の人事制度でも、上の方ばかり気にする「ヒラメ裁判官」を生み出しているという問題があります。それについては、まだ、あまり問題にされていません。日本では権力分立や司法権の独立が、いかに軽く扱われているかという見本です。