弁護士吉田孝夫の憲法の話(11) 憲法前文(2)

憲法前文は三つの段落になっています。前回は第1段落の前半です。今回は第1段落の後半を見ることにしましょう。

「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」

ここでは民主政治の基本的な考え方が示されています。アメリカのリンカーン大統領の有名な演説,「人民の,人民による,人民のための政治」が引用されて,それが人類普遍の原理だとされているのです。この文から,憲法は「国民」という言葉を日本国籍のある国民という意味だけでなく,「人民」(ピープル)の意味でも使っていることが分かります。

ただ,国民主権が憲法に書かれているだけでは民主国家だと言うわけにはいきません。明治憲法は立憲君主制の憲法と言うこともできますが,日本の国が本当に立憲君主主義の国だったかと問われれば,そうではなかったと答えざるを得ないのです。

ドイツのイェーリングという学者は1872年(明治5年)出版の「権利のための闘争」という本の中で,「法の目的は平和であるが,それに達する手段は闘争である。」と言いました。ドイツ語では権利も法も「レヒト」と言いますので,「権利のための闘争」は「法のための闘争」でもあります。

「権利のため」,「法のため」に闘争する人がいなければ,立派な憲法があっても独裁主義の国になってしまうという警告です。私はこの本を弁護士への応援歌と受け取りました。