弁護士吉田孝夫の憲法の話(12) 憲法前文(3)

第2段落及び第3段落は,一言で言えば,平和的生存権の宣言です。次のように書かれています。

「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」

これは,第9条の戦争放棄の考え方を表しています。戦争放棄は,GHQが日本に押し付けたのかどうか議論されますが,日本が世界に誇る軍事力で世界を相手に戦争を敢行し,その結果,戦火や窮乏の悲惨な体験をした大半の人々の,戦争も軍隊も嫌だという気持ちにぴったり合ったのではないでしょうか。

前文の結びに,「日本国民は、(中略)この崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」とありますが,軍事力によらずに「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」という文章は,日々の生活に追われていた大多数の国民にとっては崇高過ぎて,ピンと来なかったことでしょう。