弁護士吉田孝夫の憲法の話(14) 第1章天皇

日本国憲法は,本文が10章までで,第11章は補則です。
第1章が天皇に関する章になっているのは,この憲法が明治憲法の改正という形で制定されたからです。しかし,明治憲法の天皇と日本国憲法の天皇は法的地位に大きな違いがあります。明治憲法の天皇の地位は神話に基づいています。それに対して,日本国憲法の天皇は,主権者である国民の意思に基づいています。

第1条 天皇は,日本国の象徴であり,日本国民統合の象徴であって,この地位は,主権の存する日本国民の総意に基づく。

ここに「象徴」という語があるので,ややもすると,天皇は象徴として,何か公的な行為をしなければならないとか,公的な行為ができると言う人が少なくありません。偉い人が皆,そう言っているというので,それは間違いないと考えるのは,日本人の国民性でもあります。

しかし,憲法の解釈というのは,民衆と権力者との綱引きのようなものです。権力者は,ともすれば,自分の権力をより強くしようとします。それは,言い換えれば,民衆の自由を制限しようとすることです。

天皇が明治憲法の天皇のように大きな権力を持てば,その権力を利用する政治家が民衆を自在にあやつって,戦争でも何でもやろうとすることは,過去の歴史の教訓です。

第4条 天皇は,この憲法の定める国事に関する行為のみを行い,国政に関する権能を有しない。

憲法は,このように,天皇が余計なことをしないように配慮しています。しかし,民衆がのほほんとしていれば,知らず知らずのうちに,天皇が権力を手に入れる可能性があることは否定できません。