児童相談所(児相)と違憲の人身保護法制(4)

憲法31条違反の主張に対し、一審の裁判所は、先に書きましたように、一時保護が短期間であり(短期間というのは明らかに間違いです。)、公益目的、緊急の必要性があり、「事前に告知、弁解等の機会を必要とすることは、処分の目的や性質に照らし不相当」であり、刑事責任に結びつくものではないという理由で、同条に違反しないと判断しました。この判断は、最高裁が示した基準に、一時保護を当てはめたら、違憲ではないという結論になったということです。しかし、この当てはめは到底納得できるものではありません。

「事前に告知、弁解等の機会を必要とすることは、処分の目的や性質に照らし不相当」というのですが、人身保護請求は、事前に告知、弁解等の機会を与えなかったことによる不都合を事後的に補う制度のはずです。それは刑事手続における勾留理由開示の制度とも共通する点だと思われます。人身保護請求自体は、事前の告知の制度ではありませんので、このような理由で、公開の審問手続を開かずに門前払いするというのは、筋が通らないはずです。

憲法33条ないし35条違反の主張に対し、一審の裁判所は、それらは刑事手続のみに適用されるもので、行政手続には適用されないとしました。
憲法33条、35条は、事前に司法機関が発する令状によらなければ、身体を拘束されたり所持品を押収されたりしないことを保障する規定です。また、憲法34条は、身体を拘束された場合に、弁護人の選任権と公開の法廷で身体拘束の理由を示してもらえる権利を保障しています。人身保護法は、正に、刑事手続以外の身体拘束に憲法34条の保障を認めた規定と言えます。同法199条は弁護士依頼権を定めています。又、審問は公開の法廷で、拘束者に身体拘束の理由を説明させる手続です。しかし、一審裁判所は、児相の一時保護に関しては、公開法廷で身体拘束の理由を説明してもらいたいという人身保護請求を、「請求の理由がないことが明らかである。」としました。

この人身保護請求では、児相の一時保護が憲法で保障された人権の侵害であるか否かが争点のはずですが、最高裁第一小法廷は、先に書きましたように、「本件抗告の理由は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反を主張するものであって、特別抗告の理由に該当しない。」という理由で特別抗告を棄却しました。

2019年2月1日、国連の子どもの権利委員会( Committee on the Rights of the Child )は、日本の第4回定期報告と第5回定期報告のまとめについての総括所見を発表しました。
子どもの権利委員会は、日本も批准している子どもの権利条約(外務省訳は「児童の権利に関する条約」)に基づき、締約国の実施状況を調査している機関です。
総括所見の中に、児相に関する所見もあります。

家庭環境を奪われた子ども達

28.  委員会は、2016年の家族ベースのケアの原則を導入した児童福祉法の改正及び2017年の「新しい社会的養育のビジョン」が承認されたこと、そこには、6歳未満の子どもは施設に入れるべきではないと述べられていることに留意する。しかし、委員会は次のことを真剣に懸念する:
(a)報告によれば、多数の子どもが家族から連れ去られている。そして、子どもは裁判所の命令なしに家族から連れ去られるかもしれず、そして2か月まで児童相談所に置かれる得ること。
(b)不適切な基準を持ち、児童の虐待の発生が報告されている施設に、依然として多数の子どもが入れられていること、外部からの監視や評価のメカニズムがないこと。
(c)伝えられるところでは、児童相談所がより多くの児童を受け入れることに強い財政的なインセンティブが存在すること。
(d)里親が包括的な支援、適切な訓練及び監視を受けていないこと。
(e)施設に入れられた子どもが、肉親と接触し続ける権利を奪われていること。
(f)児童相談所は、肉親が子どもの連れ去りに反対した場合、または子どもの配置に関する決定が子どもの最善の利益に反する場合、家庭裁判所の判断を求めるように明確に指示されていないこと。

29.  「子どもの代替保護のためのガイドライン」(総会決議64/142、附属書を参照)への締約国の注意を喚起し、委員会は締約国に次のことを要請する:
(a)子どもを家族から連れ去るべきかどうかを判断するための必須の司法審査を導入し、子どもの連れ去りについての明確な基準を設定し、子どもとその両親の話を聞いた後、子どもの保護のため、そして彼らの最善の利益のために最後の手段としてのみ子どもを両親から引き離すことを確実にすること。
(b)明確なスケジュール、6歳未満の児童の迅速な脱施設化及び育成機関の設立を伴う「新しい社会的養育のビジョン」の迅速かつ効果的な執行を確実にすること。
(c)児童相談所における児童の一時保護の実施を廃止すること。

国連の子どもの権利委員会は、日本の児相の一時保護について、「真剣に懸念する」とし、児相の一時保護の実施を廃止するよう「要請」するというのです。「要請」というのは、「勧告」より強い要求です。日本における児相の一時保護制度は人権に関する世界水準からかけ離れているのです。

日本も批准している国際人権規約に基づく国連の規約人権委員会が日本政府の報告に対し1988年に採択した最終見解には次のような勧告が含まれています。

「委員会は、人身保護法に基づく人身保護規則第4条が、人身保護命令書を取得するための理由を(a)拘束状態に置くことについての法的権限の欠如及び(b)デュー・プロセスに対する明白な違反、に限定していることに懸念を有する。また、それは他のすべての救済措置を尽くしたことを要求している。委員会は、同規則第4条が、拘束の正当性に対抗するための救済措置としての効果を損うものであり、したがって、規約第9条に適合しないと考える。委員会は、締約国が同規則第4条を廃止するとともに、人身保護請求による救済についていかなる限定や制限なしに完全に効果的なものとすることを勧告する。」
「委員会は、裁判官、検察官及び行政官に対し、規約上の人権についての教育が何ら用意されていないことに懸念を有する。委員会は、かかる教育が得られるようにすることを強く勧告する。」

日本の裁判所の人権感覚は世界から憂慮されています。