児童相談所(児相)と違憲の人身保護法制(5)

国連の規約人権委員会が指摘している人身保護規則第4条を見てみましょう。人身保護規則というのは、憲法77条第1項に基づく規則です。
憲法77条1項
最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。

つまり、人身保護規則は、最高裁が人身保護法に基づく訴訟に関する手続を定めているわけです。

人身保護規則4条
法第2条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。但し、他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければ、これをすることができない。

「法第2条の請求」というのは人身保護法2条に基づく請求、即ち人身保護請求のことです。

人身保護法2条
法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。
② 何人も被拘束者のために、前項の請求をすることができる。

「法律上正当な手続によらないで」というのは、「事前の告知・弁解・防御の機会が与えられないで」という意味です。その場合には広く人身保護請求権が認められるというのが同条の趣旨です。

前に引用した人身保護法11条は、「準備調査の結果、請求の理由のないことが明白なときは、裁判所は審問手続を経ずに、決定をもって請求を棄却する。」と定めていました。人身保護法と人身保護規則が定めていることは、一見すると同じように見えますが、全然違います。それは、拘束が違法か違法でないか、必ずしも明らかとはいえない場合の結論を考えれば分かります。
その場合、人身保護法11条では審問手続が行われます。ところが人身保護規則4条では、門前払いになります。つまり、法律では人身保護請求をすれば、原則として審問手続が行われるのに、規則では、請求者は、拘束が違法だということを証明しない限り門前払いになってしまうのです。

それどころか、違法であるという証明をしただけでは審問手続は行われません。違法の理由が、権限なく拘束したか、拘束に関する裁判又は処分の「方式若しくは手続に」「著しい法令違反」があり、しかもそれらの無権限、著しい法令違反が顕著でなければ、門前払いです。それにしても、「著しく」違反していることが「顕著」とは、何という日本語でしょうか。何が何でも門前払いするぞという方針が露骨に示されています。
その上、人身保護規則4条では、「他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白」であることが条件にされています。人身保護請求にすがるほかに手段がない人が人身保護請求をしたら、以上のように絶望的な関門が待ち構えているのです。

この人身保護規則は1948年(昭和23年)の人身保護法制定後、まもなく制定されました。人身保護法ができて、最高裁はこの法律に基づき身体を拘束されている人の救済手続を整えるための規則を作るかと思えば、そうではなく、救済の途を閉ざすための規則を作ったのです。先に国連の規約人権委員会の勧告を引用しましたが、「委員会は、締約国が同規則第4条を廃止するとともに、人身保護請求による救済についていかなる限定や制限なしに完全に効果的なものとすることを勧告する。」というのは、「締約国」である日本の国会に向けられた勧告ではなく、規則制定権を有する最高裁に向けられた勧告です。

私は、人身保護規則は最高裁の規則制定権を逸脱した違憲の規則だと考えています。憲法77条1項によって最高裁が規則で定められるのは、「訴訟に関する手続」ですから、人身保護請求が認められるための実質的な条件を変更することは規則では定められないはずです。ところが、人身保護規則は人身保護法の救済範囲を勝手に狭めているのです。

規約人権委員会も、人身保護法を問題にしているのではなく、人身保護規則4条が実体法である人身保護法の内容を変えていることを問題にして、同条の廃止を勧告しています。しかし、日本の最高裁は1988年の勧告から30年以上経った現在でも、規約人権委員会の勧告無視、人権無視を続けています。2019年には、国連の子どもの権利委員会が児相の一時保護の実施を廃止するよう(勧告より強く)要請しましたが、これについても日本では真剣に受け止められていません。それは、日本の国民全体の人権意識が世界の人権意識と相当隔たりがあることを示していると思われます。

(追記)
報道によれば、2021年4月14日、厚生労働省の検討会で、児童相談所の「一時保護」について、開始時点からの司法審査の導入を求める取りまとめが大筋了承され、近く法務省・最高裁と協議する方針を固めたということです。
しかし、肝心の裁判官の意識が、「一時保護が2カ月間という短期間であり、2か月を超える場合は家庭裁判所の承認が必要とされており、公益目的、緊急の必要性を有し、常に事前に告知、弁解等の機会を必要とすることは、処分の目的や性質に照らし不相当」という状態ですから、改善はほとんど期待できません。
厚労省がこのような検討を始めたのは、国連の子どもの権利委員会の要請があったためでしょう。このような外圧がなければ日本の人権保障が進まないのは残念なことです。それでも、最高裁が人身保護規則について国連の規約人権委員会の勧告を無視し続けているのに比べれば、まだましです。