弁護士吉田孝夫の憲法の話(17) 第9条に関する法的な議論
前に,第9条の戦争放棄について,戦争を体験した大半の人々の気持ちにぴったり合ったのではないかということを書きました。今回は,少し難しいかもしれませんが,第9条に関する法的な議論について述べたいと思います。
第9条は,第1項,「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」で戦争放棄を宣言し,第2項,「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」で非武装と交戦権の否認を定めています。
1946年に第9条案が帝国議会で審議された時,吉田首相は,第2項により自衛戦争も放棄したものであると明言しました。当然,憲法学者の大半も,第2項で戦力を保持せず,交戦権も認めないとしているのですから,自衛戦争も否定されていると解釈しています。
ところが,憲法成立後,アメリカの意向を汲んで,第9条は,国家の自衛権まで放棄したものではないのだから,自衛戦争は認められないが,「自衛のための最小限度の実力」を持って,それを使用するのは「陸海空軍その他の戦力」の不保持に違反しないと言い出す人が出て来ました。現在,自衛隊は「自衛のための最小限度の実力」であって軍隊ではないというのが政府の公式見解です。そのような詭弁によって,国民をごまかし,憲法違反を重ねているのが,日本の政治の悪しき伝統です。
今では自衛隊が敵基地攻撃能力を持つべきだという議論まで出て来ています。それでも自衛隊は軍隊ではなく憲法に違反しないと言って国民をごまかすことができると思われているのです。