弁護士吉田孝夫の憲法の話(24) 基本的人権は天皇にも保障されるか

憲法11条第1文は、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。」と定めています。憲法10条には、「日本国民たる要件は法律でこれを定める。」とあるのですが、この「日本国民」に天皇は入るのかという議論があり、憲法学者でも説が別れています。明治憲法では、天皇は臣民ではないことが明らかでした。しかし、「臣民」が「国民」になったら、天皇もその中に入るとしても不自然ではないという説が当然出てきます。それに対し、日本はポツダム宣言を受諾して連合軍に降伏したけれども、国体は護持されたと考える人は、天皇は国民ではないと主張します。又、天皇は世襲という特殊性があるので、国民に含まれないという説もあります。そのようなことから、「天皇は日本国民ではない。よって人権の保障はない。」という三段論法を主張する人もいます。

人権とは、人が生まれながらに持っている人間としての権利だと説明されていることは、先に述べました。そうだとすると、天皇も人間として生まれてきた以上、基本的人権の享有を妨げられないはずです。人権というのは、権力者に対抗する言葉だという点でも、天皇には権力の側に立つ場合と、天皇が他の権力者から自由を制約される場合があるということは想定可能です。

日本の最高裁判所は一体どのような考えているのでしょうか。1989年11月20日、最高裁第2小法廷(裁判長香川保一)は、天皇を被告とする訴訟について、天皇は象徴であることにかんがみ、民事裁判権に服さないから、訴状を却下すべきであると判断しました。すなわち、天皇は、およそ裁判権に服さないという「主権免除」「国王無答責」「国体護持」という時代錯誤の考え方に立っているものと推察されます。