弁護士吉田孝夫の憲法の話(27) 日本で人権保障が及ばない領域(2)
特別権力関係について話を続けます。
例えば、文部省地方課法令研究会編著「第二次全訂新学校管理読本」(平成5年発行)には、「国家の国家機関に勤務する公務員との関係は、一般国民の場合とは異なっている。すなわち、みずからの意思で国家機関に勤務するにいたった公務員に対しては、国家は、具体的な個々の法的根拠なしに命令、強制できるのであり、この場合の国家と公務員の関係を特別権力関係という。」と明記されています。更にその具体的な実践として、県教育委員会が行う広域人事異動に関し、教員本人の同意が必要かという問題について、特別権力関係の理論により、同意に反する転任も適法であるという見解が示されています。
そもそも、学校の先生が上司に服従するべきであるという考え方に、私は疑問を感じます。「新学校管理読本」の最近の改訂では、特別権力関係の記述は削られたそうですが。
司法においても官僚裁判官制度が採用されておりますが(それ自体、憲法上問題があります。)、憲法は、裁判官の独立(76条)を定めていますから、個々の法的根拠なしに上司から命令され服従するというようなことはあってはならないはずです。しかし、現実は違います。
憲法78条は、裁判官の身分保障の観点から、懲戒処分は行政機関が行うことはできないと定めています。そこで、裁判官の懲戒処分は裁判所が行います。しかし、懲戒処分を受けた裁判官は、公開の訴訟で争うことができないのです。一般公務員は、裁量権の濫用を理由にして懲戒処分を公開の訴訟で争うことができますが、裁判官にはそのような訴訟は認められません。これは特別権力関係そのもので、人権保障の灯台もと暗しです。