弁護士吉田孝夫の憲法の話(33) 人権感覚
学校では、人権教育ということで、子ども達に人権感覚を身に付けさせるためにどうするか、その前に学校の先生が人権感覚を身に付けるためにどうしたらいいかというようなことが課題になっているようです。国連では、「人権教育のための世界計画」というものが作られ、日本でも、国が人権教育を奨励し、各地の教育委員会でも取り組んでいます。そして、人権感覚を身に付けるためには人権に関する知識が必要だとされています。
世界の歴史の中で、人権の意識というものが広まっていったのは、1789年(日本では江戸時代の寛政の改革の頃)のフランス革命以後で、フランス人権宣言は、その後の人権宣言のお手本になりました。しかし、フランス革命自体は血なまぐさいもので、国王ルイ16世を始め、多数の人々が処刑されました。
フランス人権宣言には、人権が法律以前の自然法に基づく万人の権利であることや、人権が保障されず、権力の分立が定められない社会は、憲法を持つとは言えないという近代立憲主義の考え方が書かれています。フランス革命の主体は、ブルジョア=裕福な市民でしたが、人権は万人に平等に保障される権利とされ、後世に大きな影響を与えました。
もっとも、アナトール・フランスという作家は、19世紀末のフランス貴族の不倫を描いた「赤い百合」という小説の中で、シューレットという変人に、「峻厳な法の前の平等は、金持ちにも貧乏人にも同様に、橋の下で寝ること、往来で乞食をすること、パンを盗むことを禁じています。これは、フランス大革命の功績のひとつです。」というような皮肉を言わせています。人権感覚というのは、ものごとをいろんな面から見る感覚ではないかと思います。