弁護士吉田孝夫の憲法の話(32) 人権を侵害させない努力

人権を侵害する者は権力者だということ、憲法12条が「国民の不断の努力」を要請していることは、前に述べました。権力を持っている者は持っていない者に対して強い立場にありますから、ややもすれば、弱い立場の者の人権を侵害しやすく、人権を侵害された方は泣き寝入りしがちです。それはダメというのが憲法12条です。誰かが人権を侵害されているとき、人権を侵害された当人も、それを知った人も、みんなが権力者に向かって声を上げ、人権侵害をやめさせる努力をしなければ、かつてのドイツがヒットラーの独裁国家になったように、民主主義国家が簡単に独裁国家になってしまうというのは歴史的事実です。

世界の中で、日本は決して人権尊重の国とは言えません。国連の人権に関する委員会から日本に対し、人権に関して、制度の改善を勧告・要請がなされていますが、政府も裁判所も、ほとんど無視していると言ってもいい状況です。日本では、株式会社電通という、世論操作・情報操作の総元締めのような会社がマスメディアに対して大きな影響力を持っています。そのためか、長い年月の間に、日本の世論全体が権力者寄りになってきました。労働組合も、私の子どもの頃と様変わりしています。

憲法12条の後半は、「又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」というものです。「公共の福祉」というのは、民衆相互の福祉ということです。これを、「公益」、「国益」というように解釈すると、憲法13条の、「すべて国民は、個人として尊重される。」という個人主義の原則に反します。「個人主義」の反対語は「全体主義」です。憲法を全体主義的、国家主義的に解釈すると、戦前の悲惨な軍国主義時代の日本に逆戻りしてしまうので、注意が必要です。