弁護士吉田孝夫の憲法の話(49) 平等ということ(3)

あることがらが、差別だとして憲法違反に当たるかというのは、実際には、かなりむつかしい問題です。
2010年、高校等に在学する生徒・学生に就学支援金を給付して、実質的に授業料を無償化し、教育の機会均等に寄与することを目的とする法律が制定されました。在日韓国・朝鮮人の民族教育を行う学校として、日本の高校に対応する朝鮮高級学校があります。法律は、日本の高校に相当する教育を行っている学校の生徒にも就学支援金を給付するものとしていました。ただし、就学支援金が給付されるためには高校の課程に類する課程を置くものと文科大臣から指定される必要がありました。
朝鮮高級学校は、文科大臣に指定の申請をしました。「就学支援金給付の対象を審査するに当たって、外交上の配慮などにより判断しない」という政府統一見解が表明されていましたが、政権交代があり、新たに就任した文科大臣は記者会見で、その政府統一見解を廃止すると述べました。結局、大臣は朝鮮高級学校を指定しない処分をしました。
指定をしない処分の理由は、①「高校の課程に類する課程」というのは教育課程だけではなく学校の組織及び運用体制も含むのであり、朝鮮高級学校では、就学支援金が生徒の授業料に充当されずに、他に流用されるおそれがないとはいえない、②朝鮮高級学校では、朝鮮総連から「不当な支配」を受けている疑いを否定できないというものです。朝鮮高級学校や、生徒は、それを不当として訴訟を起こしましたが、裁判所は、就学支援金が給付される学校の指定は、文科大臣の専門的・技術的判断に基づく裁量に委ねられ、裁量権の逸脱・濫用に当たらない限り違法ではないことを前提に、指定しない理由は裁量権の逸脱・濫用とは認められず、指定しない処分は適法として、訴えをしりぞけ、最高裁もその判断を認めました。
しかし、指定しない処分によって不利益を受けるのは生徒であり、裁判所は十分に行政のチェック機能を果たしているとは思えません。