福島原発汚染水の海洋放出(海水希釈排水)問題と日本の非科学的情報操作

福島第一原発の敷地内で貯蔵されているALPS処理水について、政府は汚染水ではないとして、「汚染水」という表現をまるで違法であるかのように扱い、マスメディアも政府の大本営発表をオウム返しのように拡散しています。

ALPS処理水の海洋放出に関して、環境省のホームページに、次のような説明があります。

以下引用

日本の原子力発電所等からの環境中に放出される液体・気体廃棄物に含まれる放射性物質の規制基準は、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づき、放出される放射性物質による追加的な公衆被ばく線量(人体に与える影響)を、年間で1mSv 未満にすることを基本に定められています。具体的には、1種類の放射性物質が含まれる水を、生まれてから70歳になるまで毎日約2リットル飲み続けた場合に、平均の線量率が1年あたり1mSv に達する濃度が限度として定められています。この放射性物質ごとの濃度の限度は「告示濃度限度」と呼ばれています。
一般的に、原子力発電所等からの液体・気体廃棄物には複数の放射性物質が含まれています。そこで、複数の放射性物質の影響が考えられる場合には、廃棄物中に含まれるすべての放射性物質による影響を総合して「告示濃度比総和」という考え方が用いられ、この告示濃度比総和が「1」を下回るように規制がおこなわれます。
「ALPS 処理水」の処分に当たっては、他の稼働中の原子力発電所等と同様に「告示濃度比総和」が「1」未満になっているかどうかが確認されます。事故を起こした原子炉特有の放射性物質(セシウム、ストロンチウムなど)も含むトリチウム以外の放射性物質は規制基準未満となるように多核種除去設備(ALPS)等により濃度を低減する処理がおこなわれます。2020年9月より東京電力ホールディングス株式会社が実施したALPS 等による再浄化の性能試験においては、トリチウム以外の核種についての「告示濃度比総和」は「0.35」となりました。
また、ALPS等で取り除くことが難しいトリチウムについても、それ自身を含むすべての放射性物質の告示濃度比を1未満にするために、濃度を下げるための希釈(海水で100倍以上に希釈)がおこなわれます。これは、「ALPS 処理水」中の規制基準以下のトリチウム以外の核種をさらに100倍以上に希釈することにもつながるため、より安全性を確保できるようになります。
なお、「ALPS 処理水」を希釈して海洋に放出した場合の1年間の放射線影響は、1年間に日本人が自然界から受ける放射線の影響の約12万分の1~約1千分の1となると評価されています(関連ページ:下巻P18「『ALPS処理水』の海洋放出に関する放射線の影響評価」)。

以上引用終わり

ここで、トリチウムとは何かという予備知識が必要になります。
トリチウムとは水素の一種で3重水素とも呼ばれます。
水素 = 原子核(陽子1個)+ 電子1個
トリチウム = 原子核(陽子1個+中性子2個)+ 電子2個
つまり、水素原子は、原子核の周囲を1個の電子が回っているというイメージですが、トリチウム原子は、原子核の周囲を2個の電子が回っているというイメージです。原子核も中性子が加わって、質量が3倍だということです。

水素もトリチウムも酸素と化合して水の分子になります。いろんな原子と化合して色々な分子を作る点で水素とトリチウムに違いはないということです。ただ、違うのは、トリチウムは不安定な原子なので、原子が崩壊してヘリウムという原子になり、崩壊の時に放射線を出すという点です。その放射線は非常に弱いので、人体の外部にある場合には、影響がないと言えます。

しかし、トリチウムが体内に取り込まれたときはどうかというと、無視できるとは言えません。トリチウムが水の形で体内に入っても、比較的短期間で排泄される可能性が高く、影響は無視できるかもしれませんが、水素は水の形だけではありません。炭水化物は当然水素を含む化合物ですし、タンパク質も水素を含んでいます。骨もカルシウムだけで出来ているのではなく水素を含んでいます。身体を作っている肉や骨にトリチウムが含まれることになると、その影響が無視できるものかどうか疑問があります。

トリチウムの放射能の半減期は約12年ということですから、12年経つと、約2分の1に、24年経つと、約4分の1に36年経つと、約8分の1になります。

水質汚濁防止のために定められる排水規制は、第1に濃度規制で、濃度規制では不十分と考えられる場合、総量規制が行われます。
濃度規制は、排水口における濃度の基準を定めますが、その場合、汚染水を希釈して(水で薄めて)、基準値以下に下げた上で排水してもいいのかという問題があります。一般的には認められているようですが、条例で禁止している地方公共団体もあるそうです。しかし、希釈して排水することが認められると言っても、川から取水して、それを汚染水の原水に混ぜた上で、元の川に排水するというのは、正当性があるとは思えません。プールに汚染水を流し込む場合、汚染水の入ったバケツにプールから汲み上げた水を入れて薄め、それをプールに流し込んだら、薄める意味がないと思います。
伝えられる希釈方法は、福島の汚染水を海水で希釈して海に排水するというものですから、希釈にどんな意味があるのか疑問です。それに、汚染水の原水の汚染濃度が測定されていませんので、実態を隠蔽することにもなるかと思われます。

トリチウムに関しては生物濃縮(海中の微生物が放射性物質を取り入れ、それをプランクトンなどが体内に取り入れて成長し、それを餌とする魚などの生物が食べ、その生物を餌とする他の魚などが食べるという食物連鎖の中で、放射性物質が次々に蓄積され、濃縮されていく。)があるという研究結果はまだ存在しないということですが、自然界の壮大な生態系を再現して生物濃縮を研究することなど現在の所、不可能ですから、科学的に生物濃縮がないと証明されたことにはなりません。

福島の汚染水にはトリチウム以外の放射性物質も含まれています。それらの有害性は、トリチウム以上と考えられます。

又、放射性物質による有害性については、それ以下は無害だという許容量(しきい値)があるのか、ないのかという未解決の問題もあります。

以上の有害物質をもっと除去するという選択肢や、海洋投棄以外の処分方法を採用するという選択肢について、そのような環境アセスメント(環境影響事前調査・評価)が行われたのか、情報が伝わって来ません。

福島からの汚染水の海洋投棄によって、これから、壮大な人体実験が始まるのだと思います。

 

2023年9月15日追記

テレ東の2023年8月27日の世論調査では、福島原発「処理水」の海洋放出に「理解できる。」答えた人が67%だったということです。

政府は科学的根拠も示せないのに科学的だと主張し、中国に対して、海洋投棄に反対する科学的根拠を示せと言っていますが、通常の原子炉の運転によらない放射能汚染水の海洋投棄は国際法で禁止されていますから、日本の方が、諸外国に対し十分な科学的根拠を示して説得する責任があります。科学的根拠は示せないのですが。

日本は、政府やマスコミによる情報操作によって、中国を敵視する方向に世論が誘導されている危険な状況だと思います。