弁護士吉田孝夫の憲法の話(50) 平等ということ(4)

日本には確かに人種差別があると思います。出入国在留管理局が、収容されている外国人に医療を受けさせずに見殺しにしたという非人道的な事件のニュースには、根深い差別意識が現れていると思います。人種差別と民族差別は同じことです(人種差別撤廃条約)。しかし、日本に住んでいる外国人が皆同じように差別されている訳ではありません。差別されていても、それを問題だと思わずに、当たり前のことだと思っている人もいるかもしれません。逆に、差別する方は、差別していることを実感できないのが普通です。ですから、差別を感じた人が、それは社会の問題だということに気が付き、声を上げないと、なかなか社会問題になりません。
前にも書きましたが、民間人の差別的な行動は憲法の問題ではなく、本来の人権侵害でもありません。憲法14条1項の、「政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」との定めは、権力の側で行動する人々に向けられているからです。ただし、民間人でも、権力に匹敵するような力を持っている団体等の行為は例外的に人権侵害と判断される場合があると考えられています。それに、憲法が差別を禁止しているので、民間人が行う差別行為が、違法行為と判断される可能性が高いということはあります。その場合、裁判は、憲法違反がどうかという裁判ではなく、民法が定める公序良俗違反や不法行為に当たるか、刑法が定める侮辱罪等の犯罪か、差別禁止条例違反かというような裁判になります。
差別を感じた人が声を上げた例として、最近のLGBTQ(同性愛者等)の差別問題があり、LGBT理解増進法(正式名称は長ったらしいので省略)が制定されましたが、差別増進法ではないかという批判があります。また、国が、同性婚を認めていないのは憲法違反の差別ではないかという訴訟が各地で起こされ、「違憲」とする判決や「違憲状態」であるとする判決が出ています。