弁護士吉田孝夫の憲法の話(16) 国民と皇室の現在

2019年(令和元年)のNHKの意識調査によると,皇室に親しみを感じている人が71%だそうです。年齢が高くなるほど,その割合が高くなり,29歳以下は55%,70歳以上では77%という開きがあります。

又,皇室との距離が近くなったと感じている人は69%で,これも29歳以下は43%,70歳以上は75%になります。

平成から令和に変わる時,日本の天皇制度に大きな変化がありました。そのひとつは,前天皇が皇太子への譲位の意向を,テレビを通じてビデオメッセージという形で表明したことです。天皇が直接国民全体に対し,政治に関わる発言をすることが憲法上許されるのかという問題があります。

1936年,イギリスでは国王エドワード8世が,アメリカ人であるシンプソン婦人と再婚しようとして,「私は愛する女性と結婚する固い決意でいる。」という真意を国民に直接訴えようと,ラジオ演説のための草稿を作成していたところ,時のボールドウィン首相がそれを知り,差し止めたという実例があります。首相は,「政府の助言なしにこのような演説をすれば,立憲君主制への重大な違反となる。」と言ったそうです。

日本では天皇の行為が憲法3条,7条の明文で制限されていますから,天皇のビデオメッセージは明らかに憲法違反ですが,何も問題にならなかったところに,日本全体の憲法意識が現れていると思います。

皇位の継承については,憲法は世襲性と国会が議決した皇室典範の定めによると定めていますが,皇室典範には天皇の譲位の定めはなかったので,政府や国会は,天皇のビデオメッセージに振り回される結果になりました。天皇が退位したら上皇になるなど,時代錯誤と思われますが。