弁護士吉田孝夫の憲法の話(26) 日本で人権保障が及ばない領域(1)

日本の中でも、日本の法が事実上適用されない領域があります。例えば、米軍基地です。1952年4月28日、サンフランシスコ講和条約と同時に日米安保条約と同条約3条に基づく行政協定が発効しました。行政協定は、後に日米地位協定に引き継がれ、今日に至っています。これに関して、日本の政府は、一般国際法上、駐留する外国軍隊には特別の取り決めがない限り、接受国の法令は適用されず、日本に駐留する米軍も同様であると説明してきました。

しかし、政府の説明にもかかわらず、そのような一般国際法は存在しないことが明らかになりました。それでも、政府は米軍には日本の法は適用されないという見解を改めていません。安保条約について、前に述べましたように、最高裁は高度の政治的配慮に基づき、合憲か違憲かという判断を避けました。安保条約が違憲ということになれば、安保条約も、それに基づく地位協定も無効です。地位協定は憲法より上位にあると主張する人もいますが、学説も最高裁も憲法が上位という見解はほぼ一致しています。

明治憲法下では、国内でも、人権保障が及ばない領域があるという考え方が支配的でした。これは、刑務所などの収容者、官吏の勤務関係などは、一般国民との関係とは異なる特別な権力関係が成立するので、その内部には憲法による保障も、司法権も及ばないという考え方です。

現行憲法の下では、特別権力関係論は否定されたというのが学者のほぼ定説ですが、現実の行政にはその考え方は生き残っているようです。最近、名古屋出入国在留管理局に収容されたスリランカの女性が、明らかな体調不良にもかかわらず医療を受けさせてもらえずに死亡したという事件が大きく報道されました。そこには収容者の人権無視の現実があります。