弁護士吉田孝夫の憲法の話(34) 用語と憲法感覚

私が司法試験に合格して司法修習生になった1973年(昭和48年)に大阪高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所の合同の建物がほぼ完成し、その建物の1階に「弁護士控室」が設けられることになりました。その時、大阪弁護士会は、「弁護士控室」という名称に反対したというのです。その理由は、明治憲法の時代に、代言人(現在の弁護士)は裁判所に来ても、呼び出されるまで法廷に入ることができず、控室に控えていなければならないとされていたので、「控室」という名称には官尊民卑のニュアンスがあるということでした。その結果、「弁護士控室」ではなく、「弁護士室」という名称になったということです。

つまり、日本国憲法15条2項は、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。」と定めています。「すべて公務員」というのですから、最も広く、公務にたずさわる者、天皇も含め、公務員に準ずる者までということです。天皇は公務員ではないと言われるかもしれませんが、それは、前に触れました天皇機関説事件のむしかえしです。現在は、役人が上で人民が下という考え方は、憲法に反するのです。

裁判所で用いられる言葉に、「上申書」というのがあります。裁判所の書記官は、よく、「それについては、上申書を提出して下さい。」と言います。「上申」というのを国語辞典で調べると、「上司に意見や事情を申し上げること。」というように説明されています。つまり、「上申書を提出して下さい。」というのは、人民は裁判所の部下であり、裁判官は人民の上司だという立場から言われていることになります。書記官も弁護士も、それを意識して「上申書」と言っているとは思いませんが、そのような用語に違和感がないというのは、官が上だという意識が心の片隅にでも残っているからではないかと推測します。