弁護士吉田孝夫の憲法の話(54) 国家賠償(2)

憲法について54 国家賠償(2)
憲法17条は、何人(なんぴと)も公務員の不法行為により損害を受けたときは、「法律の定めるところにより」賠償を求めることができると定めて、国家賠償に関する立法を国会に委任していますが、国会がその法律を制定しなかったり、制定された法律が不当に損害賠償請求権を制限するような内容であった場合、被害者は憲法を根拠に、損害賠償請求をすることができるのでしょうか。このようなことは、憲法が国会に具体的な立法を委任している場合には、常に問題になります。
憲法98条は、「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」とし、憲法81条は、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する終審裁判所である。」と定め、全ての立法は最終的に最高裁判所の違憲審査権に服さなければならないのです。従って、憲法が国会に具体的な立法を委任している場合、国会の自由な裁量に任されている訳ではありません。
憲法が用いた「不法行為」という文言や「損害賠償」という文言は既に民法に存在する法律用語ですから、国会がこの文言を勝手に違う意味にしてしまうことはできないと思います。
憲法17条を受けて1947年(昭和22年)に国家賠償法が制定されましたので、法律を制定しない場合の問題はなくなりましたが、国家賠償法が被害者の権利を不当に制限していないかという問題は残っています。例えば、被害者は、不法行為を行った公務員個人に対して損害賠償を請求できるかという問題や、外国人が被害者である場合、国家賠償法6条は、その外国と相互の保証があるときに限り損害賠償請求を認めるとしている問題があります。判例・通説は公務員個人に対する損害賠償請求を認めず、国家賠償法6条も合憲としていますが、「不法行為」、「何人も」という文言に照らし、いずれも疑問です。