ロシアのウクライナ侵攻について思うこと(5)

ロシアとウクライナの殺し合いは、未だ収束の兆しが見えません。このことから、どのような教訓を汲み取るべきでしょうか。
ある人は、もしウクライナが降伏すれば、国際秩序も正義も崩壊することになるから、何としてもウクライナを勝たせるべきだと主張します。
ロシアがウクライナに侵攻したことが国際法上違法であることは衆目の一致するところです。だとすれば、ウクライナが正義で、ロシアは悪だという善悪、黒白で判断するのが正しいのでしょうか。
又、ある人は、もしウクライナが降伏すれば、明日は我が身(日本)が侵略される危険があるから、何としてもウクライナを勝たせるべきだと主張します。
日本は、中国や北朝鮮やロシアの核兵器の脅威にさらされているという事実があります。そうだとすれば、日本はアメリカの核の傘によって、中国や北朝鮮やロシアに対抗しなければならず、ウクライナに対しても、アメリカと共同歩調を取らなければならないのでしょうか。

アメリカの政治は、アイゼンハワー元大統領が警告したにも拘わらず、軍産複合体によって支配されています。アメリカのロイド・ジェームス・オースティン3世国防長官は、アメリカの中央軍司令官を務め、最終階級は大将、退役後は大手軍需産業であるレイセオン・テクノロジーズ等の取締役に就任し、そこから国防長官に就任しました。日本に当てはめれば、自衛隊の統合幕僚長、三菱重工業の取締役を歴任した後に、防衛大臣に就任するようなものです。アメリカが既に軍国主義国家になっているということは争いようがありません。アメリカの、官庁と大企業との間で人が入れ替わるのが常態になっている人事は「回転ドア」と呼ばれますが、軍産複合体の回転ドアも存在するわけです。

このような観点から、過去の戦争を見てみましょう。
前にイラク戦争のことを書きました。その前の湾岸戦争は、1990年8月2日、イラクによるクウェート侵攻により始まった国際紛争であり、イラクのサダム・フセイン大統領がクウェートの石油資源を獲得しようとしたことが原因であったと、公式的には説明されています。イラクがクウェートに侵攻した経緯については何も説明されません。ロシアのウクライナ侵攻に関する報道と同様です。
イラクは当時財政難であったということですが、直接のきっかけは、クウェートが国境付近でイラクの石油を盗掘しているとの疑惑を追及しようとしたのに対し、クウェートが取り合わないため、平和的な解決が困難だと判断したということがあります。そこで、1990年7月、フセインがアメリカ大使グラスピーにクウェート侵攻についてアメリカの対応を打診したところ、大使は「アラブ間の紛争にアメリカは介入しない」と答えたというのです。それを聞いたフセインは、8月1日、クウェート侵攻に踏み切りました。ところが、翌1991年1月、アメリカを主体とする多国籍軍は、イラクのクウェート侵攻は国際法違反だとして、イラクに対する戦争を開始し、イラクの事実上の降伏により戦争は終わりました。
アメリカがイラクとの戦争に世論を誘導するために利用した手段として、有名な「ナイラ」証言があります。ナイラという15歳の少女が、1990年10月、NGOのトム・ラントス人権委員会で、「イラク軍兵士がクウェートの病院から保育器に入った新生児を取り出して放置し、死に至らしめた」と、涙ながらに証言して、世界に衝撃を与えました。
湾岸戦争終結後、その少女はクウェートの大使の娘であり、全て演技であったことが明らかになりました。

このような前例を見ると、アメリカは、他国で何かもめ事があると、平和的な解決のために仲介をするのではなく、戦争をけしかけ、それによって利益を得ようとする傾向が窺えます。

ウクライナとロシアの間にも、長い紛争の歴史があります。アメリカやNATOにとっては、ロシアはソ連時代から仮想敵国でした。ウクライナを「西側」に引き入れ、世界最大の核保有大国であるロシアに対抗する最前線基地にすることは、アメリカ・NATOにとって戦略的に大きなメリットがあることは明らかで、アメリカの軍産複合体が、ウクライナとロシアとの間の軍事的緊張を高め、その方向で画策してきたことには何の不思議もありません。

日本の世論(種々の情報操作・世論操作の結果ですが。)の大勢では、湾岸戦争の教訓は次のようなものでしょう。
① 平和のために血を流す覚悟が必要。
② 戦争には正義の戦争と不正義の戦争がある。
③ 一国平和主義は世界に通用しない。
ウクライナの現状を前にして、日本のリベラルの大勢も、ウクライナは正義であり、ロシアは不正義であるから、ウクライナを勝たせなければならないという意見に傾いています。

しかし、私はそのような意見には絶対反対です。戦争は、それ自体が悪です。ウクライナとロシアの戦いは、湾岸戦争におけるクウェートとイラクの戦いです。湾岸戦争やイラク戦争ではアメリカ自ら多国籍軍の主体としてイラクに攻め込み、勝利したわけですが、アメリカ軍の戦死者も出ました。今回は、アメリカはウクライナに代理戦争(proxy war)を行わせています。

以上の歴史から汲むべき教訓は、日本がアメリカの代理戦争をさせられるような状況から、逃げて逃げて逃げまくるのが最も大事ということだろうと思います。そのために、国の最高法規であって、日米安保条約にも優越する憲法9条があります。これを手放すなんてとんでもないことです。

ところで、岸田首相は1月13日にワシントンに行ってバイデンと会う予定だそうです。アメリカへの手土産は、敵基地攻撃能力保有を含む大軍拡計画の決定です。これが何を意味するかというと、中国、ロシア、北朝鮮を仮想敵国とし、戦争を引き起こすための緊張を増大させることです。しかも、アメリカのために大金を投じて。

又、実際に戦争が始まったら、自衛隊をアメリカの新しい代理軍(America’s new proxy army)にするということです。アメリカのジャーナリストTim Shorrock(ティム・ショロック)氏は、そのように言っています。

2023年1月17日追記

岸田首相は、予想通り、バイデン大統領に大歓迎されました。その前、1月11日には岸田首相はイギリスを訪問し、自衛隊とイギリス軍が相互の国を訪問する際の法的地位などを定めた「円滑化協定」に署名したと報じられています。日英同盟の復活とも言われていますが、自衛隊がイギリス軍と対等の軍隊とされています。日本国憲法は軍隊の保持を禁止しており、自衛隊は軍隊ではないというのが政府の公式見解ですから、もはや憲法無視の政治が行われているということです。それは、法の支配の欠如を意味します。法の支配のためにウクライナを支援するという前に、日本には法の支配がありません。

 

ロシアのウクライナ侵攻について思うこと(1)
ロシアのウクライナ侵攻について思うこと(2)
ロシアのウクライナ侵攻について思うこと(3)

ロシアのウクライナ侵攻について思うこと(4)