司法修習生の「給費制」問題の議論で抜け落ちているもの(4)

5 司法修習制度に負わされた役割

前述のように、本来法曹一元を要請していた憲法の下でキャリア・システムを継続する代償として、下級裁判所の裁判官の再任を原則再任制と解釈すること、新たな法曹要請制度を法曹一元の理念に近づけることの二点が案出されました。そのような代償が必要とされる理由は、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」という憲法七六条三項の存在です。司法権の独立は、立憲主義、メタ憲法原理から導き出されるものであり、人権を保障するためには権力を制限しなければならず、そのためには権力分立、特に司法権の独立が必須だという考え方に基づいています。
そうすると、次には、その代償によって実質的に司法権の独立、裁判官の独立が守られるかという問題が出てきます。司法権の独立のために、憲法七八条は裁判官の身分保障を定めていますが、それだけでは不十分です。「すべて裁判官は」と規定されているように、新米の裁判官であっても、司法権の独立を担うことができる能力、見識を備えていなければ、司法権の独立も裁判官の独立も形式だけのものになってしまうおそれがあります。
一九四六年(昭和二一年)七月五日、新憲法案を審議する委員会において三浦寅之助代議士は、「裁判官は弁護士の相当経験を経た者から採用すると云うことが、弁護士会の印刷した物にも書いてあるのであります。私も従来からそういうことを考えて居る一人でありますが、実際に於いてそう云う裁判官の任用等に付てどう御考えになって居られるか伺いたいと思います。」と質問しました。これに対し、木村司法大臣は、「学校を出てまだ間もない人がこの複雑なる世間の問題となって居る事件を取扱うのはどうかと云う御尋ねであります。それは御尤もであります。只今私が就任して以来司法研修所と云う大きな組織体を作って居ります。これは今現に出来つつあります。そこで十分に学校を出て試験に通った人を養成して居ります。そう云う機関を通じて十分な教育をして行けば、相当立派な裁判官が出来るじゃないかと思って居ります。又弁護士から採用したらどうかと云うことでありますが、これは御尤もであります。私も弁護士からなったのであります。そこで総て判事は弁護士から採用したらどうかと云うことでありますが、これは大問題であろうと思います。そうしますと弁護士機構も相当考えなければなりませぬので、今の所これはどうしてやって行くかと云うことに付ては実は頭を悩まして居ります。研究問題として今部内で検討して居ります。憲法草案実施の暁に於きまして、この問題を解決したいと考えて居ります。」と答えました(清水伸編著「逐条日本国憲法審議録〔増訂版〕第三巻五五三頁以下」。
この「相当立派な裁判官」というのが言葉だけで実質が伴っていなければ、司法権の独立、裁判官の独立は空文化してしまいます。弁護士からは、前述のように、一〇年の弁護士経験を有する者から司法官を選任するべきだという意見が出されていました。それに匹敵しないまでも、できるだけそれに近づける必要があったはずです。木村司法大臣が「相当立派な裁判官」と言ったにもかかわらず、修習期間を三年ではなく二年とし、判事補一〇年、二級検事八年の制度になったことで、統一修習の構想も、法曹一元の要請から見れば不十分な結果に終わりました。

(つづく)