司法修習生の「給費制」問題の議論で抜け落ちているもの(7)

8 司法修習生の給与廃止の本質問題

司法修習生に対する給与について、初めて「給費制」と言い換えたのは、私の知る限りでは、司法制度改革審議会(司法審)意見書です。司法審設置法によれば司法審は、「二一世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし、国民がより利用しやすい司法制度の実現,国民の司法制度への関与、法曹の在り方と機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について調査審議する」こととされ、衆参両院の付帯決議では、国民の司法参加、人権保障等とともに法曹一元も重要項目に挙げられていました。しかし、司法審意見書には「法曹一元」の文字はありません。臨司意見書のような、法曹一元を理想とするというリップサービスさえもないのです。
二〇〇一年の司法審意見書75頁には次のように書かれています。
「4. 司法修習
○ 新司法試験実施後の司法修習は、修習生の増加に実効的に対応するとともに、法科大学院での教育内容をも踏まえ、実務修習を中核として位置付けつつ、修習内容を適切に工夫して実施すべきである。
○ 給費制については、その在り方を検討すべきである。
○ 司法研修所の管理・運営については、法曹三者の協働関係を一層強化するとともに、法科大学院関係者や外部の有識者の声をも適切に反映させる仕組みを設けるべきである。
(1) 修習の内容
新司法試験実施後の司法修習は、修習生の増加(前記第1「法曹人口の拡大」参照)に実効的に対応するとともに、法科大学院での教育内容をも踏まえ、実務修習を中核として位置付けつつ、修習内容を適切に工夫して実施すべきである。
なお、新司法試験実施後の司法修習のうちの集合修習(前期)と法科大学院における教育との役割分担の在り方については、今後、法科大学院の制度が整備され定着するのに応じ、随時見直していくことが望ましい。
(2) 給費制の在り方
修習生に対する給与の支給(給費制)については、将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘もあり、新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考慮しつつ、その在り方を検討すべきである。」
司法審意見書のこの記述に先立って、意見書六一頁には、「司法試験という「点」のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備すべきである。その中核を成すものとして、法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設けるべきである。」との記載があり、それまでの法曹養成の中核であった司法修習を中核から外しました。
司法審意見書は、まるで何も問題がないかのように「給与」を「給費制」と言い換えています。しかし、本質という面から考えると、普通、働いている人の給与について、それは給費制だが貸与制に切り替えようかと言うことはあり得ません。
貸与型と給付型がある制度としては、奨学金があります。そのことから、給費制と貸与制との選択が可能なものにするというのは、司法修習生を職業から学生に変更することを意味します。
司法研修所の前沢忠成初代所長は第二期修習生の入所式において、「研修所は学校ではありませぬ。又学校であってはなりませぬ。」と述べています(前掲「岐路にたつ司法修習」二四頁)。司法修習制度は、司法官の試用期間に相当する司法官試補の制度を引き継ぎ、実務すなわち仕事をさせる制度だということです。司法修習の最後に行われる試験を二回試験と呼び習わしているのも司法官試補の制度を引き継いだことを表しています。二年の修習期間でも前述のとおり不十分と言わなければならないのに短縮されました。その上、修習専念義務を根拠づける給与の支給を廃止すれば、司法修習の実体はますます貧弱になり,空洞化してしまうと言っても過言ではありません。
憲法が要請する法曹一元に反して官僚裁判官制度を維持しつつ、その違憲性を薄めるために司法修習制度が作られたという歴史的な経緯に照らせば、このような司法修習制度の縮小、空洞化は即違憲です。
法科大学院で実務教育を行うという口実で、修習期間は一年にされてしまいましたが、法科大学院は学校です。そこで実務教育を行うと言っても畳の上の水練に過ぎません。
旧司法省でも現在のように裁判官を統制することはできなかったはずです。現状では裁判官の地位は異常に弱く、司法修習を終了したての裁判官の能力も異常に低くされているので(もちろん、個々の裁判官を見れば能力の高い裁判官も居るはずですが、法曹養成制度としては異常に貧弱な内容になっています。)、日本に司法権の独立が存在するのかどうか大いに疑問です。。

(つづく)