司法修習生の「給費制」問題の議論で抜け落ちているもの(8完)

9 給与廃止を決めた国会の実情

以上、私が述べたことについて、国会ではもっと司法修習生の給与廃止が正当である理由を議論したはずだと思われるかもしれません。そこで、国会でどのような理由が語られたのかを紹介したいと思います。
修習専念義務の法的な根拠は、司法修習生が給与を支給され、一般職の国家公務員に準ずる者とみなされて国家公務員法が適用ないし準用されていた結果です。ですから、修習専念義務について法律上の明文規定はなく、その必要もありませんでした。裁判所規則ではその細則を定めていたに過ぎません。ところが、司法修習生の給与を廃止すれば、修習専念義務の法律上の根拠がなくなるばかりか、無給で実務に従事させた上、アルバイトも禁止するというのでは条理にも反します。これは深刻な問題のはずですが、この問題が国会で審議された時のやり取りは次のようなものでした。以下は二〇〇四年(平成一六年)一一月二四日衆議院法務委員会会議録の引用です。
○江田委員
(前略)そこで、まず修習専念義務とはどのような義務か、最高裁にお聞かせいただきたい。

○ 山崎(敏充)最高裁判所長官代理者(最高裁事務総局人事局長)
修習専念義務と申しますのは、司法修習生が、修習期間中、その全力を修習のために用いてこれに専念すべき義務というふうに申せると想います。ただ、その具体的な内容ということになりますと、例えば兼職、兼業の原則的禁止ですとか、そういったことが考えられるわけでございまして、その点につきましては、最高裁判所規則で制定されているところでございます。

○ 江田委員
それでは、今回の改正で、現行の裁判所法には規定のないこの修習専念義務を規定することとした、その理由をお示しください。

○ 山崎(潮)政府参考人
たしかに、現在の法律の条文には何もないと言うことでございますけれども、これは、現在でもやはり修習専念義務があることを前提にしております。
なぜ書いてないかと言うことでございますけれども、現在は給与をしはらっておりますので、給与を支払うということは、その内容解釈からいけば、給与をいただいているのに他で働いてもいいということにはならないのは当然の話でございますので、そこから解釈がされる、こういうことで書いてございません。
具体的には、最高裁の規則の方で具体的なものについて定めている、これが現在の方法でございます。
今回、これを貸与に、修習資金に変更するわけでございます。修習資金に変更したことによって、そうすると、修習専念義務というのはどうなるんですかということを、若干疑義が生ずるおそれもあるわけでございます。貸与資金と修習専念義務との関係が必ずしも結びつくかどうかという問題もございます。
そういう点も考えまして、法律で修習専念義務を定めるということにしたわけでございまして、給与制であろうと貸与制であろうと、修習専念義務の内容、これについては全く変わらない、こういうことでございます。

以上は衆議院法務委員会会議録の引用ですが、次に、同年一二月一日参議院法務委員会会議録を引用します。

○ 鶴保庸介君
それでは、その給費制を今回、貸与制に切り替える理由は何でしょうか、手短にお願いいたします。

○ 政府参考人(山崎潮君)
これは、新しい法曹養成制度といたしまして三千人体制を作り上げていくということでございます。
質を落とさないで量を増やしていく、そのためにどうするかということで、新しい司法、法曹養成制度として法科大学院、それから新司法試験、新修習、こういうプロセスで教育をしていこうと、こういう計画をしたわけでございます。
順次これができているわけでございますが、法科大学院、これ一つ取っても大変費用が掛かるわけでございます。現実に相当の予算措置をしていただいております。それ以外にも裁判員制度あるいは司法ネット、こういうものについてもそれ相応の費用が掛かっていくと。これを、すべて国民の負担になるわけでございまして、税金でお願いをするわけでございます。
したがいまして、その国民の理解を得なければならないと、そういう観点からこの司法修習生の給費というのは、戦後に導入されましたけれども、現在の時代においてなおこれが維持できるかどうかという点については、国民の方々の反応はかなり厳しいという状況でございまして、やむなくこの制度は断念をせざるを得ないと、こういうことになったわけでございます。

以上が衆参両議院法の務委員会でのやり取りの核心部分です。
判事ともあろう者が国会の場で政府参考人として、修習専念義務が法律に書いてないのは給与を支払っているから当然だと言いながら、給与を支払わなくなっても、条文など無くても良いのだけれど「若干疑義が生ずるおそれがあるので」、念のために規定するのだというような、ごまかしを述べています。また、敗戦直後の経済状態と現在の経済状態を比較したら、従来の司法修習制度を維持できないほど現在の方が国家全体として貧しくなっているのでしょうか。国家としては何十倍も豊かになっているのではありませんか。
前述のとおり、司法修習制度は憲法に密接に関連しており、その予算を削るというのは重大な憲法問題のはずです。しかし、国会の審議ではそのようなことは完全に無視されました。

10 結び

最高裁が下級裁判所裁判官の再任を完全な自由裁量としたことにより日本の司法制度は強度の違憲性を帯びることになり、司法権の独立、裁判官の独立が本当に存在しているのか、大きな疑問符が付きました。修習期間の短縮や司法修習生の給与廃止はその延長線上にあります。法曹一元が採用されない限り、司法修習制度を縮小・廃止する裁判所法改正は違憲性を強める方向への改正ですから違憲無効とされるべきです。このような観点からは、司法修習生の給与復活を求めることも必要ですが、それだけでは重大な問題が置き去りにされかねません。修習期間を短縮したことも違憲ですから二年以上に戻し、更には、現在の暫定的な官僚裁判官制度から、速やかに憲法が要請する法曹一元制度に移行する必要があると考えられます。

以上が司法修習生の給与廃止に対する私の意見です。元司法修習生が提起した訴訟は全部敗訴に終わりました。その訴訟提起前に弁護団の参加呼びかけがあり、私も参加を申し込みました。ただし、私が考えていた本質的問題を訴訟の争点に加えていただくことを条件としてでした。私の条件は受け入れられず、私は弁護団に参加させてもらえなかったのです。