破産とは ― 破産がわかる(7)
2004年の破産法改正
破産についての考え方の最初に、破産は債務者が負債の全部を返済することができなくなった場合の制度であり、次の2つの考え方に基づいていたと書きました。
A 債権者の足並を揃えさせて、債務者の限られた財産を、利害の対立する多数の債権者に公平に分配する。
B 返済できないほどの負債を抱えてしまった不届きな債務者には何らかの制裁が必要である。
上のBの考え方は、比較的早期に消えました。それでも、多くの人々が漠然と、破産したら何らかの法的制裁があるのではなないかと誤解しています。例えば、選挙権がなくなるのではないか等という誤解です。しかし、そんなことはありません。ただ、他人のおかねを預かるような仕事は制限されます。たとえば、後見人や生命保険の外交員になれないとか、警備保障会社の仕事ができないとか、弁護士などの資格がなくなるとかです。それは制裁ではなく、政策的な制限です。会社の取締役については、現在は資格はなくなりません。
上のAの考え方は、破産の最も基本的な考え方ですから、消えることはありません。しかし、無資産者の自己破産申立てが破産の大半を占めるようになって、Aの考え方が妥当する破産の割合は急激に減りました。
2004年(平成16年)に破産法が全面改正されたのは、主としてそのような状況に対応するためでした。改正前の破産法では、自己破産の場合、債務者に予納金を負担させる法的根拠がないのに、裁判所は法律を無視して予納させていましたが、自己破産が明確に債務者の救済制度であると認められれば、受益者負担として、債務者に費用を予納させることに矛盾はありません。
2004年改正破産法は、自己破産の申立人にも費用を予納させることにしました(22条)。これで、自己破産申立てが債務者救済の制度であることが法律上も明確になりました。
破産法改正後の運用
破産費用の国庫仮支弁の規定は、改正破産法にも存在します(破産法23条)。これは、裁判所が特に必要と認めた場合に決定することになっていますが、自己破産で認められたケースは見当たりません。2013年(平成25年)4月26日、福岡地裁は国庫仮支弁を認めましたが、之は債権者申立てで、自己破産ではありませんでした。
破産手続開始決定時に債務者が所有する財産は原則として全部、債権者への配当や破産手続費用に充てられる財産(破産財団)になります(破産法34条1項)。ただし、同条3項に定める財産は、破産財団に属しないものとされ、自由財産と呼ばれます。改正破産法では、自由財産の範囲が少し広げられました。又、裁判所は、破産手続開始から1か月以内に破産者が申し立てた場合、諸事情を考慮して、自由財産を拡張することができます(同条4項)。
破産手続費用や債権者への配当に当てられる十分な破産財団が見込まれる場合には、裁判所が破産管財人を選任して破産手続を進めることになりますが、破産財団が破産手続費用にも不足すると認める場合には、裁判所は、破産手続開始と同時に破産手続廃止(終了)の決定をしなければなりません(破産法216条1項)。これを「同時廃止」と言います。しかし、実際には、財団の不足が明らかであるにもかかわらず、破産管財人選任が強行されることがあります。それは、同条2項で、「破産手続の費用を支弁するのに足りる金額の予納があった場合には、同時廃止の決定をしなくてもいいと定めているからです。
裁判所が債務者の隠し財産がないかどうかを破産管財人に調査させるというのであれば、その場合の費用は債権者のための費用ですから、申立人にとって受益者負担とは言えないはずです。破産法216条このような場合に裁判所が破産管財人の選任を強行しようと思えば、債権者に費用を予納させるか、国庫仮支弁の決定をするべきです。破産法216条2項は、「申立人が費用を予納した場合には」という文言ではなく、誰が費用を予納するかは不定になっています。
かつて大阪地裁では道下裁判官が債権者に意向聴取書を送って予納金を負担する意向の有無を調査し、債権者に予納金負担の意向がないことを確認した上で、同時廃止の決定をした前例を書きました。それは、裁判所の職権調査権限に基づくものでした。職権調査の規定は改正破産法にも存在します(8条2項)。
現金は99万円までは自由財産とされていますが、裁判所が破産管財人の選任を強行する場合、破産法22条1項により、破産管財人の報酬分まで費用の予納を命じます。自己破産申立人は自由財産から破産管財人報酬分までの現金を破産財団に組み入れるよう強制されるのです。このようなやり方は違法と考えられますが、最高裁でも破棄されません。
裁判所のおかしな運用はどうしようもありませんが、そこからどうするかを考えるのも弁護士の仕事です。