裁判官弾劾裁判所だけでなく分限裁判制度も違憲(8)

8 分限裁判は「裁判」ではないということについて
前に、懲戒処分というのは、本来、裁判ではないと述べました。他の公務員よりも裁判官の方が、身分の保護が薄いのではないかということも。

憲法は次のように定めています。
32条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
82条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

この条文について、最高裁は、かつて、32条の「裁判」は82条の「裁判」と同じではなく、対審・公開・判決の手続を意味せず、訴訟手続によるか、非訟手続によるかは、事件の性質によって政策的に選択できるものという考え方に立っていましたが、1965年7月6日大法廷決定により、従前の判例を変更し、「若し性質上純然たる訴訟事件につき、当事者の意思いかんに拘わらず終局的に、事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判が(中略)公開の法廷における対審及び判決によってなされないとするならば、それは憲法82条に違反すると共に、同32条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨をも没却するものと言わねばならない。」との判断を示しました。

つまり、憲法32条は、「当事者の意思いかんに拘わらず終局的に、事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否」について争われている問題については、その当事者には、例外なく「裁判」で争う権利を保障しており、しかも、その「裁判」というのは、憲法82条に定める、対審・公開・判決による裁判であるということです。

裁判官分限法は、前述のとおり、対審・公開・判決の手続を採用せず、非訟手続によっています。最高裁が、懲戒申立書の理由に拘束されずに懲戒の理由を付け足しているのは、非訟手続だからです。

1966年には、最高裁は、地方裁判所が非訟事件手続法により民法所定の登記の懈怠に対する秩序罰たる過料に処した事件について、このような民事上の秩序罰としての過料を科する作用は、国家のいわゆる後見的民事監督の作用であり、その実質においては、一種の行政処分としての性質を有するものであるから、憲法32条、82条の対象外であるとの判断を示しています(最高裁大法廷決定昭和41年12月27日)。この決定には、反対意見が付いています。過料に対する不服申立手続は純然たる訴訟事件の性質を有するのではないか、また、過料に科する処分が行政処分であるとしても、それに対する不服申立てについての裁判は、憲法32条及び82条に該当するのではないかというものです。

寺西判事補に対する懲戒処分について、その抗告審である最高裁大法廷が非訟手続で抗告棄却の決定をしたのは、上記事件の多数意見によっていると思われます。しかし、裁判官分限法には、過料を科する処分に収まりきらない問題があります。

そこで、岡口裁判官の分限裁判ですが、それが行政処分だとすれば、最高裁が行ったとしても、行政処分を訴訟で争うことは憲法32条及び82条により保障されているはずです。ところが、裁判官分限法3条2項により、最高裁は、「第一審且つ終審として」懲戒決定を行うので、不服申立の手続はありませんし、訴訟で争うこともできないというのです。最高裁の考え方によれば、懲戒処分も「一種の行政処分」ということになるはずですが、不服申立が許されない行政処分を受けた当事者には、憲法32条の「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」という裁判を受ける基本的人権の保障が及ばないというのです。裁判官分限法は高裁裁判官の基本的人権を否定するものですが、最高裁は、それが合憲だという理由を示していません。

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